場末ノZ(9)
○劇場かてどらる・舞台(夜)
マリアが登場し、一転歓声があがる。
客席にはファンや場末の男達。
ファン1「成程成程。そういうテイストね」
ファン2「確かにこれって、マリア様的には未開拓のジャンルだよね」
場末の男1「うるせえ黙って見ろ!」
VIP席につく塚越。
マリアに鞭で叩かれる武藤。
わざとらしく舞台上を転がりヒールで顔を踏みつけられる。
客席から失笑がこぼれる。
小首をかしげ不満そうな塚越。
塚越「あれ? こんな感じじゃねーんだけどな」
マリア、武藤を見下ろして。
マリア「(小声で)もっとちゃんとやってよ!」
マリア、激しく鞭で叩く。
武藤「(猿ぐつわ)痛い。痛い。痛い」
客席の笑いが大きくなる。
塚越「まあ、これはこれでアリっちゃアリか」
苦笑いする塚越、舞台を見切って席を立つ。
○同・控室(夜)
笑いながらモニターを見るシスター達。
ジャンヌ「パイセ~ン。前座の芸人じゃないんだから~」
○同・ステージ(夜)
マリア、武藤を蹴っ飛ばす。
武藤、バランスを崩し客席に転がる。
爆笑と、妙に盛り上がる客席。
マリア「もう! バカ!」
マリア、逃げるように退場する。
○同・控室(夜)
帰り支度のシスターたち。
直立不動で反省している武藤。
熟女シスターが煙草を手に説教する。
熟女シスター「つまり一歩間違えれば緊張は笑いに代わるって事。ぶっつけ本番でいい緊張なんて生み出せないのよ。それくらいマリアなら分かってるはずなんだけどな」
武藤「(猿ぐつわ)全部僕が悪いんです」
熟女シスター「取ればそれ」
武藤、猿ぐつわを取る。
武藤「僕が悪いんです」
ジャンヌ「私は違うと思うけど」
帰り支度をしているジャンヌ。
ジャンヌ「あの人が単にたるんでるだけじゃね? 本気で叩いてないのよ。だからム~ちゃんはきちんと痛がれない。それが失敗の原因」
武藤「僕が悪いんです」
ジャンヌ「結局、ステージを舐めてんのよ。あの女」
と、シャワーを浴びたマリアが現れる。
マリア「水」
マリア、自分の席に座る。
武藤、水を差し出す。
マリア「髪」
武藤、マリアにドライヤーをあてる。
ジャンヌ「うわあ、カッコいい。芸能人さんみたいですねえ」
マリア「……」
ジャンヌ「マリアさんってこの町嫌いでしょ。この町もこの仕事も私達も」
マリア「……」
ジャンヌ「聞いてんだよババア」
立ち上がり、ジャンヌを睨むマリア。
マリア「嫌いに決まってるじゃん」
緊張の中、ドライヤーの音だけ響く。
大きく紫煙をふく熟女シスター。
熟女シスター「二人とも若いね。羨ましい」
ジャンヌ、控室を出る。
マリア「熱い!」
武藤「すみません」
マリア「もういい下手くそ! 貸して!」
マリア、自分で髪を乾かす。
○同・居酒屋ホオムランケン(夜)
賑わっている店内。
無言でジュースを飲んでいる武藤。
武藤「……」
無言でお茶漬けを食べているマリア。
マリア「……」
喧騒の中、録画された野球の名勝負が流れている。
マリア「トレーニングするから。今から」
武藤「……トレーニング?」
(つづく)