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ショートショート トラネキサム酸笑顔
舞台袖。
相方の喉の調子が良くならない。
うちの相方は緊張したり、つまらないネタをするとき、お客さんが重いとき、喉の調子が悪くなる。
「喋れる??」
相方は小さく首を振る。
ただ今日だけはなんとか頑張ってもらいたい。
今日の舞台はお笑いグランプリの決勝なのだ。
幼馴染でコンビを組んでから下積み12年。
ようやく掴んだチャンス。
ただ相方がこの痛みを発症して、ウケた試しがない。
ネタ合わせもできずに、本番の時間が迫る。
私は最終手段を使うことにした。
ポケットから錠剤を入れたケースを取り出す。
相方は不思議そうな顔をしている。
「これっ、実はこれ爆笑薬だから。もしこの賞レースで最下位になっても俺達は面白い。少なくてもお前のせいじゃないから。多分…俺の実力不足だから」
錠剤の中身はトラネキサム酸。
喉の痛みを軽減してくれる。
喉の痛みを発症しているのはお前だけじゃない。
面白いお前を芸人の世界に誘ったのは俺なのに、俺がつまらないから、貧乏な生活を相方にさせてしまったことを気にして俺も喉に炎症を起こしていた。
二人ともメンタルが弱い。
小学生の頃に友達を二人で笑わせていたあの頃に戻りたい。
いや…笑わせていたのはコイツか。
「ップ。お前はやっぱりつまらないな(笑)。本当になんか痛みが軽減している。あぁ、これならいけるかも」
相方はいつの間にか錠剤を飲んでいた。
今のコイツは…絶好調で、友達が笑い転げてしまうくらい、面白いときの相方だ。
いけるかもしれない。
大会終了後のインタビューで優勝の理由を聞かれた相方は、
「違法な爆笑薬を相方に飲まされたんです」
と答え、俺はツッコミを忘れて笑っていた。
(677文字)
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お題 トラネキサム酸笑顔
少し長くなってしまいました。
最後まで読んでいただきましてありがとうございます。