ショートショート バンドを組む残像


「いい加減勉強に集中しろ!!お前ボーッとするなら教室の外で立ってろ」


なにも言わずに席を立ち教室の外に出た。






昨日のロックフェスが忘れられなかった。



様々なミュージシャンが演奏しているのを見て興奮する。


今…窓の外を眺めているはずなのに、静かな廊下なはずなに。


脳内ではバンドマンの残像で頭が埋め尽くされていた。


俺は教室の外を眺めながらバンドマンになることを決意した。






東京に上京して、もう10年は経つ。


夢を追いかけてみたが現実はそんなに甘くなかった。


インディーズライブで演奏するがうまくいかない日々。


解散も繰り返し、結局アルバイトで生計を立てる日々だった。


俺はどうしてバンドマンなんかになってしまったのだろう。


同級生が結婚、仕事で昇進しているのに、未だに俺は売れないバンドマン。


そろそろ限界かもしれない。


「たまにはさ、ロックフェス行って勉強しようよ」


そうやって励ましてくれる彼女。


俺は彼女とロックフェスに行くことにした。






俺が見ていた頃のフェスとギャップを感じる。


時代も変わり、音楽も多様化している。


昭和の人気バンドよりも令和のバンドの方が勢いがあった。


少しだけ冷めてる自分に俺も感性が大人になったのかと思ってしまう。


彼女は楽しそうに演奏を聴いている。


嫉妬しそうになるけど、普段なにもしてあげれないから我慢した。


俺は教室で立たされた頃のようにボーッとしていた。






誰かに肩を叩かれた。


立っていたのは高校生の頃の俺だった。



周りには誰もいない。



「バンドマンになって幸せだった??地元で就職したほうがよかった??」



なにも答えることはできない。



なにも答えない今の俺に過去の残像は質問を続ける。



「過去に戻ってやり直せるなら、バンドマンはやめる??」



なにも俺は答えることができない。



「今なら記憶をなくして過去に戻れるよ??」



俺は喉を振り絞るように声を出す。



「戻らない…俺…バンド好きだから。まだあの頃の残像が残ってるから」





「そう言ってくれて良かった。バンド聴けるの楽しみにしてる」



「待ってくれ」



「うん。じゃあ」



「じゃあ」





「熱中症ですね」


フェス中に倒れた俺は救護室に運ばれていた。


「水分をよく摂って、今日はゆっくりしてください」


医者の声が聞こえてきた。


心配そうに彼女が俺を見ている。


「大丈夫??」


「ごめんね。楽しみにしてたのに」


「いいよ。そんなの。それより体調大丈夫なの??」


「大丈夫。むしろ元気出てきた」


「なにそれ??本当に大丈夫??」


「今日は誘ってくれてありがとう。帰ったら俺の演奏も聞かせるね」


「うん。わかった(笑)」


新しい曲が生まれる気がした。


曲名はバンドを組む残像にしよう。


(1077文字)


たらはかにさんの毎週ショートショートの参加しております。
お題 バンドを組む残像
 


楽しくて書きすぎてしまいました。
長いのに最後まで読んでくださった方々。
本当にありがとうございます。

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