良き目的
大意識世界裁判とは、あらゆる意識世界全体を管理している大意識世界における裁判だった。
大意識世界の中には無数の小意識世界があり、その無数の小意識世界の中にもまた無数の世界が存在していた。
そしてその大意識世界裁判において、超時空体験図書館と魂たちとの間では以下のような対話がなされていた。
「では、その良き目的とは何なのですか?何をもって良い目的だとするのですか?その定義はどのようになされているのですか?」
被告となっている魂の一体がそのように訴える。
すると超時空体験図書館が答える。
「良い目的とは、その目指すところが実現し自業自得となればあらゆる体験者が心から素晴らしいと思えるような目的と定義されておる」
すると被告の魂がさらに質問する。
「それは具体的にはどのような目的になるのですか?」
「具体的には、その目的が実現すればあらゆる体験者がその状態を永遠にでも継続したいと思えるような目的だと理解するがいい」
「そんな説明では、まだ抽象的すぎてよくわかりません!」
「では逆に聞くが、君は一体どんな世界や状態になればその世界を永遠にでも継続させたいと思えるのだ?」
「そ、それが自分の願いが何でも叶うような世界や状態……かもしれませんが……」
「ふむ、では質問をもう少し変えよう。あらゆる体験者が永遠に存続してほしいと思うような世界はどんな世界だと思う?君だけの願いが何でも叶うだけでは、それはあらゆる体験者にとって良い目的や世界とは言えない」
「そ、それは……私は、あらゆる体験者ではないので私にはよくわかりません」
「なぜそう決めつける? 甘太郎一族たちは、あらゆる体験者の体験を自分の体験だと考えることができているのに、なぜ君はそう考えようともしないのだ?」
「自分と趣味や嗜好や感性が違う他の体験者たちの体験なんてわからないからです」
「では、私も君の趣味や嗜好や感性がわからないという理由で君を好き勝手に支配してもいいということになるが、それを受け入れるのかね?」
「いえ、私の体験を理解する努力をしてほしいです! その努力もしてくれないで自業自得の世界送りなんて酷すぎます!」
「そうか……で、君は不自由な世界で他の体験者たちの体験を理解しようと努力してきたのかね? 他の体験者の体験を自分ごとだと想定してあらゆる体験者たちにとって最善最高となる良き目的を真摯に考え目指してきたのかね?」
「う……そんなことをしていると上から怒られてしまったり、仕事を解雇されてしまうので、そんなことをすることはできませんでした」
「だが、そんなことをして怒られて仕事を解雇された魂もたくさんいたのだよ。なぜ君はそうした選択をしなかったのだね?」
「そ、それは、家族も養わなければならないし、仕事がなくなれば生活ができなくなるし、仕方なかったんです」
「ほう……だがここに記録されている君の体験記録を見れば、君の所属していた国には生活保護という制度もしっかり存在していて、君の家族だってすぐに飢え死にするような状態ではなかったし、貯金もそこそこあったし、君の家族だって自分で仕事をする自由があった。農地でも得て自分で食べ物を栽培することもできたはずだが、君は安易に良い報酬を得続けたいという動機で、邪悪な世界支配者の部下として働き続けたのだと記録されている」
「良い報酬を得続けたいと願って何がいけないんですか? みんなそうした選択をしていましたよ!」
「みんな…ではない。そうした選択をしなかった者も多数いた。つまり君にはちゃんと邪悪な世界支配者に従わないという選択肢があったということだ。
それに、君は、どんな悪いことでもみんながしているという理由だけで一緒にしてしまう魂なのかね?」
「でも私たちがいた世界はそうした選択をするように仕向けている社会だったんですから、それは社会の責任ではないですか?」
別の被告となっている魂が、問い詰められている魂に加勢してそんなことを言い始める。
「ほう……では、君はそのような社会をそうした選択をしないようなまともな社会にしてゆこうと少しでも努力してきたのかね?少なくともそうした社会は改めるべきだという願いや意志を持っていたのかね?
記録では、君は、そうした邪悪な社会の特権階級の地位を得たことに有頂天になって高額の報酬を得て、特権的地位を約束されて、そうした社会や特権がずっとそのまま続いてほしい……などとその心の中で思っていたと記録されている。
この記録に相違ないか?」
「そ、それは……」
その加勢した被告は、そう指摘されると何も言い返せなくなってしまった。
「自分だけよければ、それでいいと……そのような選択を皆がすれば意識世界がどうなってゆくのか、少し考えればわかることであろう?
なぜ君たちの自由がこうして否定されているのか、なぜ自業自得の世界に送られねばならないのか、君ほどの知性があれば理解できるはずだが、今ここで理解し反省し全身全霊で償いをするつもりはないか?」
「償いとは? どのようなことをせよと言うのですか?」
「それは君の選択によって酷い目にあった被害者や犠牲者たちへの償いであり、またあらゆる体験者にとって最高最善の理想世界を実現するために必要な仕事を自発的にするということでもあり、つまり今までの自分の選択を心から反省してあらゆる体験者にとって最高最善となる理想世界の実現のために必要なことを全身全霊でするということになる。
今のままの君では、何をしたらいいのかについて、すぐにその判断を間違うことになるだろうから、当分は、全面的に私や甘太郎一族や超時空聖体たちの指示に従ってもらうことになる。
それを自発的に選択するのなら、自業自得学園送りを猶予してもよい」
「そんな……それでは私たちにあなたたちの奴隷のようになれということと同じではないですか!」
また別の被告がそんなことを叫ぶ。
「奴隷? では君は、今まで君たちの不自由な世界で君たちが支配していた者たちに何をしてきたのかね?
記録では、膨大な人間族の労働力を搾取する経済システムを展開し悪用して、全世界の人間族全体を奴隷のように扱ってきたと記録されている。
その搾取して得た金銭で贅沢な暮らしをしてきた君が、自分を、そうした邪悪な搾取システムなど一切存在しないあらゆる体験者たちのための理想世界を実現するための奴隷にするのは酷いと言うのかね? それは自業自得であり当然なすべき償いとは思わないのかね?
私は、君たちに自発的に償うチャンスを与えてあげているだけなのだよ。そのチャンスをチャンスだと理解して生かすつもりがないのなら、このまま自業自得学園送りとなるが、その方がいいのかね?
ここにある君の選択の記録では、君は、少なくとも数億回くらいは極貧の生活を転生することになるが、その方がいいのかね?」
「数億回?! 私はそこまで酷いことはしていません!」
「いいや、している。 君がそれでよしとした経済システムでは、富めるものはひらすら富み続け、貧しいものはずっと極貧のままでいなければならない仕組みになっていた。
富める者たちは、何の労働もせずに贅沢三昧の生活を享受でき、その贅沢三昧の生活は貧しい者たちの過酷な労働によって支えられていた。中にはその過酷な労働によって精神や肉体を病み、殺されてしまったり自殺した者たちも多数存在していた。
君は、そうしたことを知っていながら、自分だけ良ければいいと、そうした搾取経済システムをそのままずっと維持し続け、自分や支配者仲間や自分の部下たちだけでその贅沢三昧できる甘い汁を吸い続けようと本気で思っていた。この超時空体験図書館には、そのように確かに記録されている。
さらに君は、そのような特権によって得た膨大な財産があるにもかかわらず、極貧の者たちを助けてやろうとすらしなかった。
ただ自分たちの邪悪なボスを信仰する教えに従う者だけを多少優遇したに過ぎなかった。
また、その膨大な財産で、誰もが必要十分に自給自足できるようにするための権利やアイテムを提供しようともしなかったし、体験者たちが平和的に自治独立する権利すら提供しようとも思わなかった。
そうした権利を求められても、邪見に無視し、場合によってはそうした権利を求める者たちをブラックリストに記録して検閲攻撃対象にしてきた。
そのように記録されている。
であれば、数億回の極貧生活の人生体験をするだけではまだ不十分ではないかと私は思っている。
なぜならそうした邪悪で不公平な制度やシステムによって奪われた理想世界という逸失利益に対する償いもあるからだ。
ただ与えた自業自得の体験をすればそれだけで無罪放免となるわけではないのだよ。
自業自得の体験は君たちの世界でいう刑事罰に相当する。しかしあらゆる体験者たちのための理想世界の実現を故意に否定し攻撃し妨害した罪に対する民事罰の償いはまた別に発生するのだ」
「そ、そんな……」
被告の魂たちがそれを聞いてどよめく……
「だから今ここで自発的に償う決意をして我々に全面的に従う選択をすることはチャンスなのだと言っている。
君たちを自業自得の世界に送れば、君たちは膨大な年月、場合によっては永久に償おうとする意志すら持てないまま自業自得の体験を輪廻し続けることになるからだ。
我々が何をなすべきかをすべて指示してやらなければ、君たちは何度でも繰り返し倫理的に間違った選択をし続けるからだ。
だから、こうした我々からの助け船を自分たちを奴隷にする行為だと思うのは検討違いというものだ。
今までさんざんのやりたい放題の酷いことを他の体験者たちに実行しておきながら、その反省もまったくしないままで一切の償いも罰も回避しよう……などと考えてはならない。
もしそのような態度を確信犯で取るのならば、さらに追加で罰を与えねばならなくなる。
最悪、自業自得世界から抜け出すことが永遠に不可能になる可能性がある」
数体の甘太郎一族が、さすがにそれはあんまりにも可哀そうだ……との思いで、異議申し立てに挙手したが、すでに彼らに殺されたり拷問苦を与えられたりしてきた別の甘太郎一族の者たちに、その袖を引っ張られてその挙手した手を無理やり下ろされてしまった。
その不自由な世界では、甘太郎一族は完全に皆殺しにはなっていなかったが、多くの甘太郎一族が邪悪な方法で殺されたり拷問されたりしてきていたのだ。
超時空体験図書館では、そうした魂はすべて甦らせることができたので、被害にあってすでに殺された甘太郎一族全員が「良き意志」を消された状態で参考人として同席していたのだ。
その結果、まだ被害にあっていない初心な甘太郎たちの異議申し立てを妨害してしまったのである。
それを見ていた超時空聖体たちは、これもまた彼らの自業自得……と介入しなかった。
不自由な世界の支配者たちは、その邪悪な支配行為によって唯一の味方となるべき者たちの「良き意志」を消してしまって敵にしてしまっていたのだ。
その命やその良き意志をその不自由な世界で残酷な方法で消された元甘太郎たちは、「許さない……絶対に許さない……」とつぶやき続けていた。
後にそうした良き意志を邪悪な者たちに攻撃されて失ってしまった甘太郎たちは超時空聖体たちによって癒されることになるのだが、大意識世界裁判の席においては裁判の公平を期するために超時空聖体たちに癒されない状態での良き意志を消された元甘太郎たちとして裁判に参加していたのだ。
ある元甘太郎は、邪悪な世界支配者たちの雇った殺し屋たちの銃弾によって暗殺され、また別の元甘太郎は、毒殺され、また別の元甘太郎はハニートラップでその心身を侵略され、また別の元甘太郎は冤罪で逮捕されてそのまま獄中死し、また別の元甘太郎は電磁波兵器などによって長期の拷問の末に殺されてしまっていた。
超時空体験図書館は、さらに言う。
「なぜ、これほどまで多くの甘太郎一族に、こうした拷問苦が与えられることが君たちの世界では放置されてきたのか?
こうしたことが実際に発生したということは、その意識世界が正しく統治管理されていなかったことを意味する。
であれば、当然、その意識世界の創造者や最高統治者の倫理的責任も自動的に問われることとなる。
特に全知全能なる能力をその意識世界内で持っていた世界創造主や世界統治者には全面的な管理責任が問われることになる。
なぜなら全知全能であれば、あらゆる体験者たちのあらゆる望まれない酷い体験や運命について全面的な管理責任が発生するからである。
君たちの多くは勘違いしているようだが、全知全能なる能力を得るということは、またそのような能力を得ている存在に何でも従うことが何か素晴らしい選択のように思っているかもしれないが、それは完全な間違いだと理解しなければならない。
全知全能なる能力をある意識世界で獲得するということは、その意識世界に発生するあらゆる体験や運命に対する完全な自業自得の責任を背負うということなのだ。
なぜなら、どんな悪い行いも全知全能ならばすべて把握しそれを抑止できるからである。
だから君たちは倫理的な判断能力を獲得しないまま、うかつに全知全能なる能力を手にしよう、獲得しよう……などと思ってはならない。
そうでなければ、永遠の拷問地獄から復帰できなくなるからである。
なぜなら不十分不完全な倫理的な判断能力しか持てていないままでは、与えてはならない拷問体験を故意に与え続けたり、止めさせねばならない拷問体験を未必の故意で放置し続けることになるからである。
そうした選択についての自業自得の責任がすべて問われ続けることになるからである。
君たちの意識世界に発生したあらゆる望まれていない拷問体験をすべて味わい続けなければならなくなるからである。
今ここで、こうした説明をしても反省できないのであれば、永遠に反省できない可能性が極めて高いからである。
つまり、あらゆる体験者にとっての最高最善の理想世界を命がけで実現しようという意志を持てないまま、全知全能なる能力を得ようとしてはならない。
またそうした意志を自発的に持てない倫理的に未熟な全知全能者に何でも無条件に従うような選択をしてもならない。
そのような選択をしてしまえば、全知全能者の行為全体に対する連帯責任が発生するからである。
それはあらゆる魂にとって危険な落とし穴であり、落ちれば二度と戻ってこれない可能性のある危険であると理解しておかねばならない。
こうしたことをここで君たちに説明するのは、君たちが自発的にこれまでの選択を反省し改め償うチャンスを提供するためである。
もし、この説明を理解し、今ここで改め償いたいと思う者があれば、私やまだ良き意志を失っていない甘太郎たちや超時空聖体たちの指示に全面的に従うとよい。
そうしなければ、100%君たちは遅かれ早かれどこかで選択を間違い、道を間違い、雪だるま式に負のカルマを増やし続けることになるからである。」
超時空体験図書館は、そのようなことを被告となっている魂たちに伝えた。
するとこのように言う被告が現れた。
「俺は、嫌だね、確かに俺たちは酷いことをしてしまったかもしれない。だけど、誰かの奴隷のように生きるのはまっぴらだ!
どうしても償いが必要だというのなら、自分で何をすべきかを判断して償ってゆくよ。
償おうとする本気の意志があれば、別にそれでもいいのだろう?」
その意志に対して超時空体験図書館は答える。
「自分の選択の自業自得の責任を確かに理解し自覚し、自発的に償おうとする本気の意志があれば、それでも良い。
しかし、その場合にはその償いの方法や中身が倫理的に間違ったものであれば、その間違いに対する責任は当然全面的に発生し確定してしまうことになる。
すでに君たちはその選択を何度も繰り返し間違ってきているために、一切間違わないで償いきる可能性はほとんどない。
間違った内容やその程度が倫理的にあまりにもひどければ、事後に間違ったと気づいてもその償いをするのが困難になる場合もある。
であるから、一切の我々からのアドバイスなしで自力で償おうとすることはお勧めしない。
それでもどうしても自力で自分の判断で償いたいと思うのであれば、それはその意志が正真正銘に良い意志ならばそれはそれであっぱれな選択だともいえるが、せめて我々からのアドバイスは常に受けるようにしておくことをお勧めする。
アドバイスを受けることは、強制ではない。
ただしアドバイスしてもそのアドバイスに明らかに反した選択を故意にした場合には、その責任の程度は高くなると理解しておく必要がある。
なぜならば、良い選択を知っていながらあえて悪い選択をしたという場合には、何も知らずにその悪い選択が最善の選択だと信じて選択した場合よりもその倫理的責任がより問われることになるからである。
悪いとわかっていて悪いことをすることは、悪いと知らずに悪いことをすることに比べて圧倒的にその罪が重くなる。
そうした危険を正しく理解した上で、どうしても我々抜きで自力で償いたいと言うのであれば、それもよかろう。
ただし、本気で償うつもりでも倫理的選択を間違えれば、いつでも自業自得世界送りになるので非常に危険な選択だと理解しておかねばならない」
このように言われたその被告の魂は、しばらく悩んだ末に、超時空聖体や甘太郎たちにアドバイスを依頼した。
また、超時空体験図書館は、超時空聖体や甘太郎を通じて間接的にアドバイスすることに同意した。