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モノローグでモノクロームな世界

第八部 第二章
二、
 真っ白な髪が風に揺れた。
冷たい風が私達の間に吹く度に、彼女が着ていた白い服がたなびく。
この寒空の下、純白のワンピースだけを身に纏っている彼女の姿は、
見ているこちら側が思わず身震いをしてしまう程、寒々しかった。
だが、当の本人は、全くそれらを感知していないのだろう。顔色一つ変えず、ゆっくりと歩きながら私の方へと近づいてくる。
私はそこから一歩も動く事も、否、身じろぎ一つ出来ず、ただその様子を見つめ続けた。

 まるで、時が止まっているようだった。
無論、実際のところは違う。
ひっきりなしに風が渦を巻き、荒れ果てた大地に堆く降り積もった雪や砂塵を容赦なく、巻き上げた。ごうごうと音をたてる風に煽られ、雪が、私達の視界を遮る。
だが、私も彼女も一切、それらを避けようとせず、服に降り積もっていく雪を振り払おうともしなかった。

それらの動作は不要だと、
私達はお互いに知っていたからだ。

なぜなら、私はもうすぐ死ぬのだから。
なぜなら、彼女は人ではないのだから。

「時間だね。」
私のその言葉に、彼女が反応を示したのかはわからない。
私の手前、ニ、三メートルの所にまで近づいた彼女は、そこで漸く立ち止ると、ずっと後ろ手にしていた左手をすっと私の眉間目掛けて伸ばす。
その手に握られているのは、真っ黒な鉄の塊。
真っ白な景色の中で、まるでそこだけが意志を持っていたかのように、
そして、その意志を読み取ろうとして、
私の目はその重い黒い塊へと吸い寄せられていった。

これは、何度目の殺人行為だろうか。
白い指が引き金をゆっくりと引いていく。
私は、彼女の瞳を見つめた。
今度こそ。
そんな願いを唱えながら。

今度こそ、私を殺してくれ。

引き金を引き終われば、それで終わり。
この世界から漸く解放される。
『パァン。』
くぐもった乾いた音が辺りに響き渡った。

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