アラベスクもしくはトロイメライ9
第二章 四
7月4日(日)
もしも私が本当の名を最初から持っていたら、きっとこんな結末は選ばなかっただろう。だって、1年前の私はこんな事、ちっとも考えていなかったし、今が楽しければそれでよかった。
本当にそれだけでよかったのに。
きっと最後まで、平凡で地味だけどいつでも笑っていられる『誰か』で居られたのだろう。それが時々羨ましく感じる事もあるけれど。最後まで知らない振りをし続けることができたら、幸せだったのだろうけれど。
1年前のあの日。突然、突きつけられた真実。
あの日から、私は徐々に壊れていった。
たった一枚の紙きれ。そんな物で、今までの何もかも全てを壊してしまった私達家族は、最初からどこか歪に歪んでいたのだろう。今まで大切に築きあげてきた何もかもが、偽物に過ぎなかったという真実のみを残して、それは意図も簡単に何もかもを壊していった。
嘘の上に、これ以上一体何を築き上げればいい?
何を築きあげたとしても、全ては砂上の楼閣なのに。
それでも、樋賀砂奈の嘘の話を読むのは楽しかったし、志摩華唯と会う時間は、刺激的だった。一瞬が永遠に続けばいいのに、なんて柄にも無く思ってみたり。
もしもなんて無いのに、今でもほんの少しだけ何かを求めている。
~花園風花の日記より~
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