モノローグでモノクロームな世界
第五部 第二章
二、
「なんだ、てっきり、副島さんは元ワームの人かと思ってましたよ。あちらの内部の情報を知りたくて、上がスカウトしたのかと。」
「期待を裏切るようで悪いが、俺はブラックアウトした事はないよ。クリーンそのものだ。」
そう自分はクリーンそのものだ。
そう副島は自分に言い聞かせる。
そうでなければ、きっと彼は思い出してしまうだろう。
壁の外で見たあの光景を。
そして、祖父の論文に書かれていた内容を。
人はどれだけ己の行動に本当の意味で責任を持てるのだろうか。
果たして、どれだけの人間が自分の取った行動に対して、最後まで胸を張って正しかったと言い切れるのだろうか。
副島には、正直言って、今のナインヘルツの在り方も、その一員として人々を取り締まっているこの行為も、誰かに批判された時、胸を張って最後まで自分の行った行為が正しいと、自分は世界のために善き事をしているのだと言い切れる自信が無い。
ただ、それが自分の職務であり、そうする事が己に科せられた義務であり、自分の下にいる部下たちの為に、ナインヘルツが下した判断に疑問を持ってはいけない。今のナインヘルツの、そして東方支部検閲隊第一部隊長という副島の立場を支えているのは、得てしてそんな所に過ぎない。
それが間違っていることもとうに気づいている。そこに昔はあった一分の意義の欠片もとうに、失ってしまった事も本当は副島自身気づいている。
だが、それは、絶対に人には知られてはいけない秘密だった。
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