モノローグでモノクロームな世界 第一部 第一章 五
五、
どの位そうしていただろうか。
やがて白いコートに身を包んだ三人の衛生委員達がやって来ると、手際よくマドカの形跡を世界から取り除いていった。
淡々と遂行されるその作業からは、人が亡くなった事に対する悲しみも、驚きも一切感じられなかった。始まりと同じように唐突に終わりを告げた彼らは、作業を終えると足早に白いバンに乗り込み夜の街を後にしていった。
彼らが去った後は、いつもと同じ光景がそこに広がるだけ。
朝になり、住民がドアを開けても、皆、ここで昨夜人が死んだことにすら気が付かないだろう。いつもと同じ、真っ白で奇麗で誰も傷つかない、誰も傷つけない、平和で安全で安心の美しい白い世界がそこにあるだけだった。
教会の屋根から降りた僕は、冷え切った指先を温めようと、ポケットに手をねじ込み夜空を見上げた。スコールが止んだ漆黒の夜空には、彼女と最後に見たあの白い大きな月がぽっかりと浮かんでいた。
月と同化する。
そう言っていたマドカの面影をそこに求めたけれど。
だが、心にぽっかりと空いた穴が寂しくて。悲しくて。
零れ落ちていく感情を紛らわすことが出来なくなった僕は、
その日から夜になると猫のように小さく丸くなり、ベッドで独り泣き続けた。
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