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アラベスクもしくはトロイメライ 17

第四章 『痛いと知覚するためにこの感情に名をつける。』

 一、
 『ねぇ、知ってる?この学園の黒い噂。』

そんな言葉が私達の間で話題に上るようになったのは、三月に入ってすぐの事だった。地元で話題のスポットを集め掲載するタウン誌が、W学園に纏わる黒い噂と題して学園で過去に起きた事件の記事を掲載したのがきっかけだった。掲載された内容が内容なだけに、その記事は瞬く間に地元一帯に広まり、遂には学園にまで届くこととなった。あたかも、学園と事件が深く関係しているように書かれたその記事の内容に、私達生徒を始め、関係者一同、皆、動揺を隠せずにいた。そして、学園にとって、最も都合が悪かった点は、その記事の内容が極めて事実に即しており、根も葉もない噂だと一刀両断できなかった点にあった。

 12月の怪異。そんなオカルト的なタイトルで語られる内容は、数年前から連続して小動物の死体が学園の敷地付近で見つかっており、犯人の目星がついていない事、また何れの事件においても12月24日の夜から25日の未明にかけて行われる点を特徴として挙げていた。そして、何よりも私達が恐れたのは、この記事が何時、書かれた物かは不明だが、そこに花園風花の名が出てこない点とこれらの記事の事件について、私達生徒の誰一人も知らなかった事により、花園風花の死が本当に自殺であったのかという疑念を抱かぜるおえなかったことにある。見えない恐怖は瞬く間に集団感染の如く、学園内に広がり、少女達は輪唱するかのように花園風花の死が本当に自殺であったのか、彼女も一連の事件と同じように誰かの手によるものなのではないかと口にするようになった。これら一連の騒動は、大きなうねりのように私達を取り巻いていき、いつしか学園内は花園風花の死が公になった時よりも更に思い空気に支配されていた。

 そして、私はと言えば。
「そういえばさ、風花ちゃんと樋賀さんって、風花ちゃんがああなるちょっと前ぐらいからさ、仲、悪かったよね。」
「うん。私もそれ思ってた。喧嘩でもしたのかなって思ってたけど。ほら、いつからか、全然話さなくなったじゃん。覚えてる?修学旅行の班決めの時、風花ちゃんが、樋賀さんに一緒の班になろうって話しかけたのに、樋賀さんってば、風花ちゃんの事、無視して他の子と組んだの。」
「あぁ、覚えてる!・・・・・・ていうかさ、ねぇ、風花ちゃんって死んだの、確か、12月25日・・・・・・だよね。」
「2学期の修了式の日だから、そうだよ。ねぇ、それって、あの記事にあった・・・・・・」
「え・・・・・・もしかして・・・・・・」
「やだ、怖い・・・・・・」
 この事態を全く想定していなかったわけではなかったが、警察が風花の死について自殺と公言していたこともあり、私はたいして気にしていなかった。そのつけが今更回ったかのように、気づけば私は今や完全に孤立し、危ない子の見えないレッテルを貼り付けられていた。
 それまで、慎重に築き上げてきた平穏な孤独の為の砦は、今や全く意味を持たない。もう、何の力も術も持たない私は、早々に白旗を挙げると、登校と同時に保健室経由の図書室行きで下校時刻までやり過ごす日々を送っていた。
 こんな私の元にも、華唯や石澤さん(こちらは、業務連絡が主だけれど)という来訪者が来ては、情報を与えてくれた為、今この学園で何が起こっているのかは随時知ることができた。その情報によれば、生徒たちの声に負けたのか、来週から再度、櫻井先生の取り調べが始まる事、そして今度は警察が正式に介入する可能性があるとの事だった。

 「砂奈、別にいいよ。あんたが知ってる事、全て話しても。」
金曜日の放課後にふらっと立ち寄った華唯は、そんな事を私に告げたけれど、どんな事があっても、私は他の誰にも私達の秘密について話すつもりはない。それは、ただ単に華唯を失いたくないこともそうだけれど、きっと他の誰にも私達の秘密は理解できないことを知っているからだ。

 光の反射で見える世界は、時々、私に違った世界を見せる。
それなのに、どうして他の者と同じ世界だと信じることができよう。
私は私の意志で、いづれ世界を閉じよう。
この世界が奇麗なうちに。
  少しだけ、赦されたその時に。


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