モノローグでモノクロームな世界
第八部 第三章
二、
地下の生活は私が想像していたよりも快適だった。
無論それは、ミハラが用意してくれた偽のIDと引退したナインヘルツの元高官という偽の肩書があったからに他ならないだろうが。
そして、ダームシティという特別な場所が、私に思わぬ自由を与えた。
この地、ダームシティは、世界の経済面を支えている場所だ。国自体が地下にあるという構造も含め、他の国々とは一線を画していた。ナインヘルツは、世界中の経済の中心になる場所として、ダームシティを造り、自らがそれを支配することでこの世界を経済的にも支配しようとした。
ダームシティに居住することは元より、この国に入国することすら、普通のIDでは容易にできないのは、そのためだ。
だが、まさか、そんな所にまさに捜索している人間がいるとは、彼等とて思わないのだろう。ダームシティの入国審査官は、私が差し出した偽のIDと肩書をはなから信用し、大した精査もせずに私に居住の許可を与えた。
ダームシティには、実に様々な情報が集まっていた。ナインへルツの情報だけに留まらず、様々な国の情報がひっきりなしに流れてくるのだ。そこでワームの活動に必要と思われる情報をリトリを通じて、ワームに伝えることができた。逃げ場所として最適だった事、情報の坩堝だった事。
そして、この国を選んだ最大の理由。
それは、富裕層を中心にまことしやかに囁かれていた噂を確かめたかったのだ。
その噂はこんなものだ。
『あの国に行けば、死んだ人間に会える。』
その噂を私が聞いたのは、もう随分と昔のことだった。
旧暦のクリスマス。
時期で言えば、そんな頃だったろうか。
それがどういった会合だったのかすら忘れてしまったが、ナインヘルツに私がまだ居た頃、国の富裕層とナインヘルツの高官とで集う会合があった。その席で、とある国の男が私に教えてくれたのだ。
『ダームシティに行けば、死んだ人間に会える。』と。
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