アラベスクもしくはトロイメライ 29
さて、今、これを書いている私は、本来であれば先程、死んだのであるから、ここに居ない筈である。よって、この物語は、ノンフィクションに近い私の完全なる空想だ。だが、それでもある部分に関しては限りなく真実に近いことをここに記しておく。
私達は、皆、自分という物語の登場人物に他ならない。この物語を自ら読み、創り、時には在らざる何かに従う。それを私達三人は、方法は違えど、皆、否定した。花園風花は自分の物語を偽物だと言い、志摩華唯は他人の物語も自分の物語も壊し続けた。そして、私、樋賀砂奈は、自分の物語を自分で終えようとした。この物語が誰かの目に触れる頃、私、つまり樋賀砂奈に当たる人物は、この世界に居ないだろう。この物語は、私が生きている限りは、世に出ることはない物語なのだから。
十一歳違いの妹。私は彼女にとって、いつだって完璧な姉で居ようとした。彼女を守れるだけの力が欲しかったし、無条件に無邪気に私を信じる彼女にとって、いつだって完璧でいようとした。本当の私と偽りの私。いつ、この嘘がばれるのか、ただ、それが怖かった。浅はかな仮面が破り取られるその日を、私はいつも恐れていた。
死にたがり。それも、風花のように実行する意志すら持つことができない。それが私だ。だから、密かに祈り続けていた。明日がもう来ませんように、どうか、この嘘が誰にもばれませんようにと。
それが、こんな形で叶うとは思っていなかったけれど。
花園風花は、本物の風花の存在に気づいていた。
彼女が私に託した最後の言葉。
『私の嘘を、砂奈ちゃんの物語で飾って。もう、誰も傷つかないように。』
彼女の嘘とは、彼女が偽物の花園風花であった事だけでなく、本物の花園風花の存在をしっていた事実を隠していた事を指すのだろう。そこにどういった経緯があったのかは、私には解らないが、そのために風花は死を選んでまで私にそれを隠して欲しいと私に頼んだ。そして、私は彼女の最後の願い通りに、花園風花の死の真相を嘘で彩った。
全て上手くいったはずだった。
それなのに、私は今、本物の風花に狙われている。知りすぎた私達は、破滅型のジェットコースターから勝手に降りることは許されない。
私に残された時間は、もう長くないはずだ。
だから、最後に私は願う。
どうか、華唯を止めてほしいと。
そして、風花や華唯を追い詰め、壊した本当の犯人を突き止めてほしい。
『私達の頭はもぎ取られた。
胴体はもうない。
私達に残されたものは、足が二本と頭だけ。』
樋賀砂奈は誰のこと?志摩華唯は誰のこと?
羊飼いは誰のこと?
全てはフィクションの海に沈む。
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