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モノローグでモノクロームな世界

第五部 第一章
三、
 検閲官のみで構成される取締部隊が結成された背景には、九つの国が出来上がったばかりのある事件の影響が色濃くあった。
事件と言っても、未だにその原因も明確に解っていない為、それは事件と言っていいかは不明であるが、出来たばかりのこの世界にとって、それは大きな議論を齎したのもまた事実だった。
 
 衛生歴が始まって数年、最初の自殺者が出た。
その後も、まるで感染が広まっていくかのように、世界中で右肩上がりに増えていく自殺者に、ナインヘルツを始め、国も対応に追われた。
当時を知らない副島は、その辺りの記述をナインヘルツのデータベースで漁ったに過ぎないが、それでも関係者が残した記述を見る限り、彼らに大きな影響と動揺、憤りを与えたのは確かだった。

 せっかく助かった命を何故、無駄にするのか。
理解できない彼らの行動に、ナインヘルツを作り上げた当時のメンバーの一人は、残された記述の中で憤りを露わにした。
それから、数年。
人々の感情をコントロールするべく、トリプル・システムが生まれることになる。

 このシステムが生まれた事による功績は大きかった。
人々の感情を直にコントロールできる事により、自殺に繋がるような強い感情の揺れを感知し、強制プログラムにより踏みとどまらせることができたからだ。これにより、自殺者は世界中に大幅に減少した。
また、これだけに留まらず、ナインヘルツや国に対する反対派も締め出すことができた。
 やがて、ナインヘルツは、トリプル・システムにより国や地域の治安を逸脱する者や行為を取り締まるために、検閲部隊を各支部に設け、自らを傷つける者や他者を傷つける者、あるいは政府やナインヘルツに対して反行為を行う者達を隔離することに成功した。
 だが、その実、表に出てこないだけで、反対派が消えたわけではなかった。彼らは、検閲部隊により検挙あるいは、トリプル・システムにより弾かれ、ホワイトアウトの対象となると、国の基準に合わないという理由だけで、家族や住んでいた場所から引きはがされ、幾つもの国をたらい回しにされた挙句、辺境の地へと追い立てられた。
それがサカイに住む人々、そしてワームだった。
 サカイに追い出された人々の数は、皮肉なことに、ナインヘルツが発足され、新しい世界のシステムが軌道に乗っても、減少するどころか、年々増加していた。最初は小さな集落でしかなかったサカイは、今や十月国辺境だけでなく、どの国の辺境にも存在する。どの位の人数がいるのかは、もはやナインヘルツですら、正確に把握できていない程、その数は増加していた。

 彼らは時折、壁の外へ出向いては、そこで嘗ての世界にあった機械や物品を拾ってきて、それらを自らの手で修理し、サカイで食物やエネルギー等と交換し、生計を立てている。オールド・メカと呼ばれるそれらの機械は、今の世界では造り出す事ができない貴重品とされ、国の中心部に暮らす富裕層を中心に人気が高い為、サカイを出入りする貿易商人により、高値で買い取られる。その昔はこれらの品々が、壁を越えて入ってこないように、検閲部隊が取締りを行っていたが、富裕層の強い反発にあり、現在では黙認されていた。

 これら、サカイを取り仕切るのがワームと呼ばれる集団だ。無論、検閲部隊も何度もサカイやワームに対し、検閲を行っているが、その実態解明になるような証拠を掴むことすらできていなかった。
「それにしても、相変わらず資料、薄いっすね。何ですかこれ。ぼやけた船体の写真と直近の飛行ルートだけじゃないですか。」
ナインヘルツ本部から送られてきたワームに関する資料を、片目で確認しながら呟くカランが言うとおり、それは資料と呼べるかも怪しい程の情報しか記されていない。
「それだけ、本部もワームについて、何も掴めていないんだろう。だから、少しでも情報が欲しい。故に、しょうもない理由により、我々は今、辺境の地にこの寒空の下、向かっているという訳だ。」
「そりゃあ、そうですけど。・・・・・・副島サンは、ワームを見たことはありますか?」
「あぁ。・・・・・・一度だけな。」
「え!?本当ですか?その話、聞かせてくださいよ。」
薄っぺらい情報よりも役にたつと思ったのか、それとも、ただ単なる興味本位か、いずれにしろ、今までのどこか気だるそうな雰囲気から一変した部下の様子に、苦笑しつつ、副島は不精髭を蓄えた口を開いた。

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