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アラベスクもしくはトロイメライ 12

 第三章 三

 私たちは今、学園から海へと向かうバスに揺られている。
車内には私達以外に乗客は無く、静寂が支配する空間から逃れるため、私は窓の外を眺め続けた。
波間に揺れる月光。
ヘッドライトに照らし出される果てしなく続く黒い道。
遠くにぼんやり見える町灯り。

 学園発のバスは、ゆっくりと私達を乗せ、暮れゆく港町を駆けてゆく。
「このまま、終着駅に着かなければいいのにね。」
「このまま、どっか遠くに行きたいね。」
「明日になる前に。」
「終わりが来る前に。」
交互に話す私と華唯の台詞は、どこか芝居じみていて嘘くさい。だが、今の私にはそれが心地よいのもまた事実だった。

 「砂奈、私ね、風花の日記、見たことあるんだぁ。」
「そっか。」
「パパの机の上に置いてあったの。きっと、その探偵さんに見せるためだと思うんだけどね。真っ暗な部屋の中で、青い表紙が奇麗で、思わず手に取っちゃったんだ。
すぐにパパが部屋に戻ってきたから、少ししか読めなかったんだけど。でもね、風花の字だってすぐに解ったよ。」
華唯の舌ったらずな口調が、静かな車内に馬鹿みたいに響く。家族の事を話す時の華唯は、こんな風にいつもどこか甘えながら話すことを、私は今更ながら気が付く。
「あのね、砂奈。風花は、多分だけど、砂奈の秘密に気付いていたみたいだったよ。」
「……そっか。」
馬鹿、みたいだね。

自嘲気味に零した台詞を車内に残し、私たちは真っ暗な海岸へと降り立った。

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