モノローグでモノクロームな世界
第八部 第三章
三、
李鳥にもう一度会えたのならば、なんと声をかければよいのだろうか。
私はもう何百回、何千回と、そのことについて考え続けている。
あの日からずっと。
私が創りだした偽物の彼女達は、私を許してくれた。
それなのに、私の最期の願いを叶えてくれる者はいなかった。
それこそが、私を許すということだというのに。
まるで、それこそが罪であるかのようだった。
私に自分の羽を与えた彼女は、飛び立てないまま堕ちていった。
彼女を犠牲にしてまで羽を得たアレグロは、壁の外に行く事ができただろうか。
そこで彼は幸せになれただろうか。
私はあの物語の続きを聞くことはできない。
ハナが死んだ先の物語を聞くことは、永遠に無い。
私にできることは、結局のところ、こうして地下に潜ったまま、喪った彼女の幻影を追い求めることしかできないのだ。
富裕層の男にかつて教えてもらった通り、ダームシティの地下には確かにゴーストが居た。物謂わぬゴーストが。
目的地の無い循環し続ける線路の上を駆ける電車の中で、私は私自身が創りあげたリトリとは異なるリトリをこの目に写すことができた。それだけでも、その電車に乗った価値はあった。ホログラムの原理を使い、記憶している思い出の人を映しだす。うっすらと後ろの席が透けて見えるその体に、手を伸ばすと光の粒子がきらきらと反射した。
私の頭の中にあった彼女は、爆炎に巻き込まれた瞬間の物ではなく、東京でお互いを傷つけあいながら暮らしていた時の姿でもなく、生まれ故郷のどこにでもあるような小さな書店で出会った時の高校の制服を着た彼女だった。
所々、私自身の記憶が欠如しているためか、欠けている彼女。今にも消えそうな姿の彼女は、私を見ながら小さく微笑むと、ゆっくりと指の無い手を私に差し出した。その細い手首には、最後に彼女にあげたあの翼のモチーフのブレスレットが揺れていた。
私はその姿に少しだけ涙を流した。
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