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モノローグでモノクロームな世界

第六部 第二章
二、
 それからの私の行動は、自分で言うのも難だが狂気じみていただろう。

 李鳥と同じ顔の人形を作ると、この世界を創りあげていく過程で得た知識を総動員し、人工知能を与え、李鳥の過去を、記憶を植え付けていった。
 壊れたら、また作り、壊れたら、また作る。
その繰り返し。
彼女達に私は、いつも同じ命令を下した。
『世界が壊れた同日同時刻に、私を銃口で狙うこと。』と。

 だが、その命令は、私が今ここに居る事からも分かるように、成功した試しがなかった。
彼女達は、命令通りに、世界が壊れたあの日と同じ日、同じ時間に、どこに居ても私を見つけ出し、私の頭めがけて銃口を向ける。だが、いつも、何故かその引き金を引く段階で壊れてしまうのだ。
何度試しても結果は同じだった。まるで、誰かが邪魔をしているかのように、彼女達は皆、彼女と同じ顔をして、私に向けていた銃口を最後の段階で自分のこめかみへとつきつけ、引き金を引いた。

最初の内は設計ミスだと思った。だが、何度修正点を見つけ出し、修正をしても同じだった。
まるで、それは変える事ができないと言われているようだった。
その度に、私は思い出す。
あの世界の終わりの瞬間に、手を離したのは、私の方だったのではないか、と。
爆風の中で彼女の手を離し、自分だけが助かろうとしたのではないか、と。

そうして、私は、その光景をついに見ることに耐えられず、最後に造った彼女にだけは、あの命令を告げることはなかった。
そうして、私は罰せられぬまま、生きる屍となっていった。

 ワームからも退き、かといって今更ナインヘルツに戻る気も無かった私は、ダームシティの地下へと避難場所を求めるように、移り住んだ。
ダームシティの地下空間は、壁の中で唯一、ナインヘルツの管轄外だ。
この世界に生きる普通の人間にとっては、トリプル・システムもTheBeeも働かない空間は、恐怖でしかないだろう。だが、私にとっては、ナインヘルツの干渉外となる絶好の場所だった。
 更に、この場所へと逃げ込んだ理由がもう一つあった。
それは、この地中深い空間は、TheBeeの影響を大きく受けない為、目に映る全ての視覚情報がモノクロに見えるという共感覚が働かない点だ。つまり、『色』という認識を持つ者にとって、この地下空間は、かつての世界と同じように色彩を感じられる場所だった。

 私はこの地下空間に引きこもると、自分の記憶が色褪せないように、ただひたすら彼女の面影を描き続けた。


そうして、『いつか』を、ただひたすら待った。
偽物の彼女に忍ばせた暗号を解く者が現れる『いつか』を。

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