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モノローグでモノクロームな世界

第八部 第二章
三、
 引き金を引けば、そこで終わり。
鉄の弾丸は、防護スーツを貫通し、即死。
あるいは、打ちどころが外れ、即死できなかったとしても、凍死によって確実に死ねるだろう。
だから、引き金を引いてくれさえすればよい。

 なのに、何故、毎回、こうなってしまうのだろうか。

指を離すその瞬間、リトリは私の目の前で、その銃口の行先を変えた。
即ち、自分のこめかみへと銃口を向け、あっけなく、その指を離したのだ。
私の目の前で。

私は足下のリトリだった鉄の塊に近づくと、開いたままだった瞳を閉じさせた。

どこかシステムに重大な欠陥がある。
少なくとも過去三体のリトリはいずれも、同じバグを起こした。私の命令を途中まで問題なく遂行していた彼女は、最後の段階になると、何故か、自分の頭に弾丸を打ち込んでしまう。
一体、何が原因なのだろうか。何度、システムを見返しても、私にはそのバグを見つけることができなかった。

 私は雪に埋もれていく彼女を置き去りにし、ポッドに戻るため、帰路へと着く。フィールド調査は全くできていなかったが、道に迷ったとでも言えば、誰も私の事を疑わないだろう。それよりも早く戻って、次のリトリを起動させなければ。誰かが彼女の不在に気付いてしまう前に。

 視界の悪い雪道をとぼとぼと独り歩く私の脳裏に、自分の頭に鉄の塊を打ち込む彼女の姿が蘇る。
リトリは李鳥だ。
少なくとも、私の中では。
正確に写し取った人形。
物質に代わったリトリの姿に、地下シェルターでのあの光景が蘇った。
私自身の手で灰へと変えた李鳥の姿が。

 頬を伝って落ちていく水分は、外気に晒され、一瞬の内に凍り付く。
こんな荒れ果てた大地では、泣く事すら許されないのだろう。

それでも瞳から零れ落ちていく涙は、瞬時に熱を奪われ、
私はその度に彼女を失う。


後、何回、こんな気持ちを味わえば、赦されるのだろうか。
否、赦されるわけなどない。赦して欲しいわけでもない。

そんなことは承知してるはずなのに。
こんな夜は思ってしまう。

後、何回、死に損なえば、
この罪の重さは、消えるのだろうか、と。

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