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一ノ瀬 織聖
2017年11月13日 23:25
第五章 三 今日も図書室は静かだ。書物の海に溺れながら、私は午後の堕落的時間を貪っている。始めの内はどうにかクラスに戻そうと躍起になっていた学年主任も保健医も、一向に介さない私の態度に諦めたのか今では見て見ぬ振りをしている。 櫻井道隆とは、あれ以来顔を合わせていない。今日も今日とて、私はお気に入りの本を手に取ると、図書室の奥の、私と風花の秘密の空間で物語の海に沈み、そこから私の世界を切り取っ
2017年11月13日 23:43
第五章 五 真っ暗な海岸は、静かすぎる程で、私達二人は何処かから流れついた流木に腰かけながら、ただ黙って静かに行き来を繰り返す波を、もう何時間も見つめていた。遠くにぼんやりと浮かぶ町の灯りの下には、今日も沢山の人々が眠る。明日を夢見て、今日を少しだけ回想して。そんな少しだけの幸せを、私も華唯も風花も、皆、壊そうとした。だから、これは罰なのだ。お互いがお互いを罰しあうという悲しい罰。そ
2017年11月18日 16:16
さて、今、これを書いている私は、本来であれば先程、死んだのであるから、ここに居ない筈である。よって、この物語は、ノンフィクションに近い私の完全なる空想だ。だが、それでもある部分に関しては限りなく真実に近いことをここに記しておく。 私達は、皆、自分という物語の登場人物に他ならない。この物語を自ら読み、創り、時には在らざる何かに従う。それを私達三人は、方法は違えど、皆、否定した。花園風花は自分の
2017年11月13日 23:30
第五章 四 12月24日(金)笑っちゃうような話って本当にあるんだ。(ここから先数行は、文字が滲んでいて判読不能) 私はそれでも、偽物の花園風花でいたこの十数年を後悔していない。パパやママやお兄ちゃん達と偽物だったとしても”家族”で居れたことも、樋賀砂奈や志摩華唯に会えたことも、・・・・・・本物の風花に会えたことも。彼女は私がこの学園に入らなかったら、こんな事にはならなかったのにねと言
2017年11月13日 23:24
第五章 二 「うっそぉ、雪だー。ねぇ、傘、持ってない?」「あるよ。また、天気予報、外れたね。」下駄箱で華唯を待つ私の前を、お揃いの制服を着た二人組が話しながら通り過ぎていく。ツインテールに結った丸顔の少女とポニーテール姿の快活そうな少女。二人の髪には、お揃いの赤いリボンが揺れている。見覚えのあるどこか懐かしいその光景に、私はどうかそのリボンを地に落とさないでと言葉に出さずに、そっと祈る。
2017年11月18日 16:01
第六章 二『三月は突風を運んできて水仙の花を烈しく散らす ーマザー・グースより』 『砂奈、話があるの。』そう華唯に告げられ呼び出された場所は、学園の敷地内にある小さな聖堂だった。学園のシンボルと称されるこの小さな聖堂は、神聖な場所である故に教員の許可なくして一般生徒が立ち入る事すら許されていない。だが、華唯はよく聖堂の中に一人で入ってい
2017年11月12日 23:13
第五章 『世界を言葉でなぞった。正解はどこ?』一、10月25日(月)今の私を支えている物。樋賀砂奈が紡ぐ物語。志摩華唯が私を呼ぶ渾名。砂のお城。足が二本と頭だけの玩具。私達だけの秘密の暗号。いづれ、物質は還元する。だから、私も還元されなきゃ。本物の風花が私から全てを奪ってしまうその前に、私は私の意志で物質になるの。誰が悪いわけでもない。これは、私の自由意志により、為
2017年11月15日 23:30
第六章 『極彩色の世界から白と黒の夢を見て。そこから、現実の色探し』一 四月。頭上を覆う満開の桜の下で、一年前の私達と同じように真新しい制服に身を包んだ少女達の無邪気に未来を見つめるその姿が、私の目に眩しく映った。 「昨年は、悲しい事がありました。ですが、皆さんは、今を生きています。一人一人が前を向き、今を一生懸命生きる事が、何よりもここにいない花園風花さんへの弔いになると信じてい
2017年11月12日 16:41
第四章 『痛いと知覚するためにこの感情に名をつける。』 一、 『ねぇ、知ってる?この学園の黒い噂。』そんな言葉が私達の間で話題に上るようになったのは、三月に入ってすぐの事だった。地元で話題のスポットを集め掲載するタウン誌が、W学園に纏わる黒い噂と題して学園で過去に起きた事件の記事を掲載したのがきっかけだった。掲載された内容が内容なだけに、その記事は瞬く間に地元一帯に広まり、遂には学園にま
2017年9月23日 15:34
第三章 六8月25日(水) 恐らく私達は、皆、最初からどこか壊れていたのだろう。樋賀 砂奈も志摩 華唯も、もちろん、私、花園 風花も。欠陥品であった私達は、その欠けた部分を埋め合うように、お互いを求めた。そのピースは嵌まり合うことは無かったけれど。 私達はいつかこの関係に終わりが来ることを気が付いていながら、気づかないふりをして笑っていた。甘い甘い時の中に、どうしようもなく醜くて、
2017年11月12日 23:08
第四章 五 白いカーテン越しに口づけ。偽物の温もりが私を責める。「俺はこの手で人を殺したことがあるんだ。」そう話す彼の手で、私は色を塗り替えられていく。熱に浮かされたみたいにふらふらの頭で願うのは、このまま時が止まればいいのに、なんて少女じみた馬鹿な幻想。「小さな女の子の前で、彼女の母親を殺してしまった。女の子の父親は、ある事件の指名手配犯で。俺たちの存在に気づいた彼が武器を持ちながら
2017年11月12日 22:50
第四章 四9月14日(火) 砂奈に昨日、私の秘密を話した。彼女は寝ていたようだから、聞いていたのかは解らないけれど。もう、ぎりぎりで誰かに話さないと耐えられそうになかった。だから、話した。それなのに、今、酷く後悔しているなんて。なんで、あんな事話しちゃったんだろう。しかも、あんな場所で。誰かに聞かれていたらどうするつもりだったの?でも、それでもいっか。あーあ、もういっその事、何もか
2017年11月12日 22:45
第四章 三 「風花の日記を見せてもらえませんか。」暗い教室で彼と二人きりで向かいあうのは、二度目の事だった。部屋には、私と櫻井先生の二人の姿のみ。余計な外野をいかに排除するかで頭を悩ませていた私にとっては、好都合と言える状況だ。だが、かといってこれでハードルが下がったわけではない。むしろ、目の前の櫻井道隆というハードルをいかに攻略するかの方が難しい事を私は勘で悟っていた。「何で見たいの?
2017年11月12日 17:10
第四章 二 花園風花の秘密は、彼女が自分自身の事を偽物と気づいたことに発端する。思えば、花園風花が秘密を持たなければ、三者三様の秘密を私達が共有しなければ、私達はもう少しだけ、穏やかな時を謳歌していたのかもしれない。葉桜が咲く頃にであったあの子は、私と華唯という1足す1を完全なる1にしてしまった。 私達は出逢ってはいけなかったのだ。それも、今となってはだけれど。「砂奈、風花の秘密を知りた