「こんなにも世界は美しいのだから feat.可不」イラストの話
あくまのゴートさんの新曲MVのイラストを描かせていただきました。曲の内容に沿いつつ個人的な気持ちも勝手に詰め込んだ絵になったので、少し解説します。
※あくまでイラスト単体についての個人的な話なので楽曲そのものの正式な設定・解釈ではありません。楽曲・歌詞をより楽しむためのちょっとしたオマケの情報として受け取って頂けたら幸いです。
さてこの曲の内容は、若い頃に抱いていたヒーローへの憧れから脱却し、大人として前を向く、というものです。
ヒーローとはもちろんNIRVANAのカートコバーン。
…ただ私、恥ずかしながら(?)NIRVANAをちゃんと通っておらず、依頼を受けた時点でカートコバーンのこともよく知りませんでした。
なので一番最初に打ち合わせの通話中ざっくり描いたラフでは普通に右利き用のギターを右利き持ちさせていました。その後でカートコバーンが左利きと知り、さてどうしようかと。
素直に左利きに描き直しても良いんですがちょっと芸がないというか、左利きのヒーローに憧れている本人が左利きというのも都合が良すぎます。あえてひねって右利きだけどギターは左弾きになったという設定も悪くないですが…
と考えていたところで「左利き用のカートコバーンモデルを右利き持ちに改造して使う」というのを思いつきました。(それならラフをほぼそのまま活かせる!!)
そうして生まれたのがこちら。
左利きのモデルを自分用に右利き持ちに改造する、というのは、ヒーローに憧れるティーンなスピリットからの脱却という曲のテーマにピッタリです(ホンマか???)
高校に入学してギターを始め、半年目くらいでNIRVANAにハマり、バイト代とお年玉貯金を足して何とかフェンダーメキシコを手に入れた…というような物語を想定してたり。
で、高校時代は楽器に合わせて左利きの弾き方を身につけようとしていたのでしょう。それで実際ある程度は左で弾けていたけど、やっぱり元々右弾きだからそれが自然だし、右手の複雑なピッキングを使う演奏などもしたくなって構えを右に戻した、と。ヒーローへ別れを告げて。それが高校卒業して20代に入ってからですかね。今はもう27歳をとっくに過ぎてるのかもしれません。
なので、イラストの制服姿は虚像というか残像のようなものです。「10代の魂を あの頃の私を全てを置いて行」った後ですから。
まあ人間的な話はこの程度にして楽器本体を見ていきましょう。
まずジャガーというギター自体が持ち方を反転させるのに向いてる操作系をしていると思います。
左右反転で一番ネックになるのはツマミ類が邪魔な位置に来てしまうことですが、ジャガーは元々メインコントロールとは別にプリセットコントロールを備えた多機能なモデルです。
カートコバーンモデルは一般的なジャガーとはやや異なりますがコントロールプレートの配置は同じです。右利き化に伴って機能を大きく絞り、演奏する右腕の邪魔になるツマミ・スイッチ類を排することができます。
というわけで本来プリセットコントロールだった部分にPUセレクタ・ボリューム・トーンを収めました。スライド式スイッチの穴を広げてトグルスイッチをつけています。
信頼のNKKラージブッシング形トグルスイッチ。
一般的にギターでよく使われるような虚弱で貧弱で脆弱なトグルスイッチの接触不良に悩まされ、何度かの交換を経てこれに至っています。なのでスイッチは新しいです。
次にブリッジについてですが、これはジャズマスター・ジャガーの交換用ブリッジとして定番のMastery Bridgeにすることは決めていました。純正のブリッジは弦を支える力が弱く、弦がブリッジから脱落しやすいという問題があります。それを解消しているのがMasteryです。「大人になる=Masteryで弦落ち(若さの象徴(??))を解決」という設定が自分の中で出来上がっていました。
が…これも私の無知だったところで、カートコバーンモデルは元々ジャガーオリジナルのブリッジではなくレスポール等に使われるTune-O-Maticが載っています。弦落ちのリスクは小さいうえ、サドルを外して並び替えるだけでアッサリ右利き化できたはずです。
まあなんでしょうね、何となく交換したかったのかな…
ジャズマス・ジャガー純正のブリッジスタッドにポン付けできるのがMasteryの美点なのにTune-O-Maticのスタッド抜いてボディ穴を広げて純正と同じスタッドをわざわざ入れるなんて「何となく」の域ではないが…
正直これはポカです。改造跡として面白い、くらいに思ってもらえれば。
ペグはGOTOHのHAPで、ポストの高さ調整ができるタイプ。
それによりリテーナーが不要になったので外してあります。ただ本当にちゃんとナット上での弦の角度が足りるのかは分からないです。6弦だと太さがあるぶん1弦ほどポスト下げられないしな…
まあナット上での弦の折れ曲がりは足りないと困るけど大きすぎてもダメなので必要なだけはあるんだろうということにしておきます。
一応、低音弦がナットから脱落しないようにナット上面を高く残し、溝が深くなるようにしてあります。
フレットはJescar 55090のステンレスにリフレットしました。
高さがあるけど幅は控えめなフレット。エッジの角度はそこそこ立てて有効幅を確保しています。
…といったように右利き化に伴って色々と手を加えています。
しかし、改造跡を積極的に隠すようなことはしていません。
穴のあきっぱなしのプレート…
ストラップピン跡…
等々。
まあ単純に個人的な好みとしてこういうのは隠さないのが好きというのはあるんですが、裏テーマとして「自分の過去を否定する必要はない」というのを込めています。
憧れから脱却し、過去と決別して前を向く、という曲ですが、今そうやって前を向いている自分も過去の全ての堆積の上に立っています。
忘れたいこと、なかったことにしたくなるようなことも、今の自分を作っている材料であり、それを否定したり隠す必要はないのです。
楽器というのは面白いもので、どのように使われてきたかという歴史がハッキリと見て取れる場合が多々あります。それは長い年月をかけて積み重なった地層が地表に露出した露頭のようなものです。
ヒーローに憧れて手にした楽器。その楽器を弾いてきた時間。
当時と同じ憧れを今は持ち合わせてはいないけれど、憧れていた自分がいたからこそ、今もこうして音楽を続けている。
過去はさよならするものではなく、全部自分に残っており、だからこそ未来へと繋がっていくのです。
MOGAMI 2524に乗せて
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