ベースでもナットの滑りは大切です
半年ほど前にマッコウクジラの歯でナットを作ってハシャいでましたが、実はあまりにも弦の滑りが悪いという不満を抱えていました。
溝を徹底的に研磨して潤滑剤を差してギリギリ許せないレベル。普通の牛骨でもここまで引っ掛かりを感じたことはないので不思議です。
なお同じ歯から他にも2本の楽器のナットを削り出していますが、それらは全く問題ありません。同じ人間が同じように仕上げてこれだけ差が出ているので、素材の偏り・ムラのようなものと推測しています。改めて見るとこのHALIBUT用に削り出したナットは弦溝が歯の中心近くの色が濃い部分に差し掛かっているような…。
普通の牛骨なりTUSQなりに交換しても明らかに改善するでしょうが、それでは海の巨人マッコウクジラに申し訳が立ちません。それに鯨歯は1988年に商業捕鯨が禁止されてから新しい材料が手に入らなくなっている希少材。そこから交換する以上はそれ相応の素材でなければなりません。
そこでフッ素と炭素が人類にもたらした祝福、PTFEを使うことにしました。テフロンという商品名の方が有名でしょう。この世で最も摩擦係数の小さい固体です。
結果、大変満足のいく仕上がりになりました。ナット上で弦がよく滑ることがこれほど快適とは。
いや、もちろん「ナット上では弦がよく滑るほうが良いですか?」と訊かれれば答えは迷わず「はい」なのですが、正直ベースではそこまで重要と考えていませんでした。
深いアーミングやチョーキングを多用するギタリストにとってナットの滑りは死活問題ですが、そうでなくてもチューニングや演奏によりナットを境にペグ側とブリッジ側の弦の張力の差は常に発生し得るもの。よってそれを淀みなく解消することは楽器が備えるべき基本的な性能のひとつなのだと改めて実感しました。
「PTFE最高!」と言って終わりたいところですが、まだ課題は残っています。接着ができないのです。
一般的な瞬間接着剤であっても指板からの横ズレに一時的には耐える程度の接着ができることは確認済みです。ナットの接着としてはそれで必要十分とも言えるのですが、より確かな方法を取るために準備中です。
あとは耐久性などしばらく使ってみないと分からないことがあるのでそれも様子見といったところです。ギターでは過去に数件作っておりますがベースでは以前のナット材比較のときの検証用として1つ作ったのみで、使い続けてどうかというのは分かっていません。
何より、新しいものに替えた直後はそれが良いものだと信じたい気持ちが強いために正しい判断ができないものです。
「マッコウクジラの歯最高!」と半年前は言ってましたから…
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