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難関大受験のおすすめ参考書・勉強法(化学編)

化学は、理科の中で最も選択する人が多い科目である。それ故だろうか。最初のうちは順調でも、途中から脱落していく人が目立つのである。私自身も理論化学までは得意だったのだが、無機化学に入った途端に膨大な量の暗記についていけなくなり、一時は落ちこぼれてしまった。しかしながら努力は実を結ぶもので、地に足をつけて勉強を続けると成績はみるみる伸びてゆき、東大や京大の大学別模試で偏差値70以上とれるまでになった。京大化学は大問が4つあり、うち2問が有機化学である。一般的に有機化学は点を稼ぎやすい分野なので、その割合が大きい化学は絶対に落とすわけにはいかないのである。当然有機も落ちこぼれていたので、我ながらよく頑張ったなと思う。ある意味京大合格の命運を最も分けたのが化学だっただろう。そこで今回は、私が実際に使用したおすすめの参考書と勉強法を紹介していきたいと思う。


参考書

毎度のことながら、使用した参考書を先にまとめておこう。

  • 原点からの化学 化学の理論/無機化学/有機化学

  • 化学頻出! スタンダード問題230選

  • 化学標準問題精講

どれも良い本だった。私がもう一度受験をやり直すとしても、化学は全く同じ本を使うと思う。かなりどうでも良いことだが、真ん中の本は改訂されてタイトルから「!」がなくなった。著者は「!」がついてるのが嫌になったのだろうか。それとも元々つける気はなかったのにもかかわらず、誰かに無理やりつけさせられたのだろうか。謎は深まるばかりである。


原点からの化学 化学の理論/無機化学/有機化学

需要があるかどうかはわからないが、化学は学習指導要領の改訂により変更された点が所々あるので、旧課程用の参考書で勉強する人は注意が必要だ。以下に重要な変更点をまとめておく。

  • 化学エネルギーの差を熱化学方程式の代わりにエンタルピーとエントロピーで表すようになった。

  • 「参考」に原子軌道と混成軌道の説明が追加された。

  • 水酸化鉄(Ⅲ)がFeOH₃と表記されなくなった。

  • マグネシウムがアルカリ土類金属に分類されるようになった。

  • 亜鉛が遷移元素に分類されるようになった。

  • 核酸の説明が削除され、生物に移動した。

  • その他、様々な名称や定義が変更された。

今回の改訂内容は大学化学との接続を考えてか、学術的な正確性を意識した変更が多いように思う。個人的には化学をより正しく教えることができるので大歓迎だ。以下、参考書の紹介に話を戻す。

本シリーズの著者である石川正明先生は、駿台の通期授業「化学S Part.1」の担当講師であった。大学受験を意識しつつも高校範囲を超えた内容にも踏み込み、化学の本当の面白さを伝えようという熱意、気迫がひしひしと伝わる授業を行っていた。質問した際はとても優しく教えてくださり、最後に激励の言葉を頂いたのをよく覚えている。私が化学を好きになれたのはこの方のおかげである。そんな師の授業内容を書籍化したのが本シリーズである。

化学は物理学と強い関連がある。どちらも自然を研究する学問であるから当然といえば当然であるが。実際、高校における理論化学は大学では物理化学と呼ばれている。物理化学とは、熱力学や量子力学、統計力学などに基づいて、物質の構造や性質、反応を定量的に研究する学問である。本シリーズの『化学の理論』がこれに該当する。いきなり原子軌道の説明が始まるため、最初は何をやっているのかわからないと思うが、根気よく進めてほしい。理論化学の理解が深まるのはもちろんのこと、その後の無機化学と有機化学も体系的に理解できるようになる。化学講師がなぜ口を揃えて理論化学が一番大切だと言うかが本書を読めば理解できるであろう。
ただ、ここまで書くのであれば、いっそのこと分子軌道法や共鳴についても書いてよかったのではないかと思う。この本に手を出すレベルの生徒であれば石川先生なら簡単に理解させられるだろうし、そのほうが説明がしっかりして逆にわかりやすいかもしれない。

『無機化学』は、3冊の中では最も暗記色が強い。これは無機化学自体にどうしても暗記をせざるを得ない知識が多いことにも起因するが、一番の理由はより理論的な説明を追求した場合、物性論をかなり高度なレベルまで導入しなければならないからだと思われる。物性論は正直私も詳しくないが、量子統計力学や非相対論的場の量子論、物質中の電磁気学などを学ぶ必要があるわけで、流石に高校生には荷が重すぎるし、時間がかかりすぎる。しかし本書ではその限られた制約のなかで混成軌道などを用いて出来る限り暗記が少なくなるように説明されており、丸暗記が苦手な人には重宝する。3冊の中では比較的とっつきやすい。

『有機化学』は有機電子論をベースとした説明が一貫して続く。「ベースとした」というのは、有機電子論自体が経験則から成立した定性的な理論であり、近年の量子力学的な反応論ほどの正確性を持ち合わせていない、あるいは分かり辛かったりするため、若干ではあるが著者による改変がなされているということだ。高校過程の逸脱度が最も高いため、シリーズ中最難関と言われているが、結局のところはいくつかのルールに基づいて電子を移動させているだけなので、慣れてしまえばそれほど難しくはない。むしろ、教科書にあるような暗記を強いる説明よりも分かりやすいと思った。

本シリーズはこの3冊以外に『化学の計算』と『化学の発想法』がある。
『計算』は高校化学の計算問題が一通り網羅されている。と言っても解法を丸暗記させるだけの悪本ではなく、化学の根本から問題の考え方を論理的に説明し尽くしている良書である。たとえ東大レベルであっても計算問題に困ったら問答無用でおすすめできるが、私はやらなかった。
『発想法』は上記3冊のダイジェスト版といった感じなので、時間がない人にはおすすめだ。

師は『原点からの化学』シリーズ以外にも『新理系の化学』という本を出版されている。どちらも内容は同じだが、『新理系の化学』の方が説明が簡潔なので、駿台で師の授業を受けている人に向いている。それ以外の人にとっては上記3冊のが良いだろう(新理系の化学についてこれない人向けに、内容はそのままでより丁寧な説明を施した本の必要性を感じて作られたのが原点からの化学シリーズである)。

定番の参考書に『化学の新研究』と『Doシリーズ』がある。
『新研究』は『原点からの化学』よりも発展的なトピックが書いてあり面白いが、文字がギチギチに詰め込まれていて読みにくい上に900ページもあるので通読に使わなかった。通読するなら『原点からの化学』、辞書として調べ物に使うなら『新研究』が良いだろう。
『Doシリーズ』は内容は普通に良いが、所々説明が雑な部分があると感じる。似たようなレベルに『坂田薫のスタンダード化学』という参考書がある。こちらは論理的でありながら丁寧な説明であり、個人的にこちらの方がおすすめだ。『原点からの化学』がどうしても難しく感じるならば見てみるとよいだろう。紙の分厚さとキャラの会話形式のレイアウトは人を選ぶかもしれないが。


化学頻出! スタンダード問題230選

教科書の傍用問題集や『化学重要問題集』に隠れて影が薄いが、高校化学を学ぶ人全員におすすめしたい良い問題集である。おすすめポイントは物理編の『物理の良問問題集』に書いてあることと若干被る。

  1. 問題の選定と難易度設定が素晴らしい。教科書レベル~入試標準レベルの難易度(傍用~重問A問題くらい)で重要なテーマが230問という無駄のない選定で網羅されている。つまり、初学から入って難関大入試で最低限必要な知識を本書一冊でつけることができる(地方国公立やmarchレベルなら本書だけでいい)。問題数も傍用+重問Aより少ないので、挫折しにくい。

  2. 大問ではなく小問ごとに難易度分けされており、自身がどこまで解ければよいかが分かりやすい。一般的に、大問丸ごと難しいというのは稀なので、本番でどこまで解ければよいかを見極める訓練をするためにも、小問ごとの難易度分けの方がよい。

  3. 解説の質が良い。学術的に正確でありながら、量が多すぎず少なすぎずで無駄がない。だから、解説を読んでいてストレスが全く無い。

正直、このレベルの問題集ならば本書の1強だと思っている。最近出版された『大学入試分野別マスターノート』も非常に良かったのだがすぐ絶版になってしまった。まあ発売時期が時期だったので、そのうち改訂されるとは思う。


化学標準問題精講

物理に続き、化学でも標準問題精講を使っていた。同じシリーズであるが、物理と化学では難易度が違う。物理は東大志望でも物理を武器にしないのであれば必要ないほど難易度が高かったが、化学はそこまでではない。東大・京大受験生であれば取り組む価値は大いにあるレベルである。いかにも簡単そうな言い方をしたが、一般の問題集に載っているような簡単な問題は1問たりとも無く、逆に本書をやりきれば東大や京大の過去問にスムーズに入っていける程度には難易度が高い。本書に取り組む前に、前述の問題集をしっかりやり込んでおく必要がある。

同じようなレベルのものに重問のB問題・巻末補充問題や『化学の新演習』があるが、本書はそれらと比べ問題、解説のどちらも優れていると思う。新演習は問題がぶつ切りになっている点が気になる。難関大入試に必要なテーマをより多く詰め込むために無駄と思われる部分を極力カットしたい気持ちはわかるのだが、このレベルになると知識量よりもむしろ大問1問を通して問題の流れと意味を理解し、考え抜く訓練のほうが重要ではないかと思ってしまう。標問は新演習と比べて問題数が少ない分1問あたりが長く、テーマも単調ではなくよく練られている。解説も新演習ほど助長ではなく、かといって重問ほど不足してもいない。基本事項の復習から始まり、問題の考え方から解答までを非常に丁寧かつ無駄のない、洗練された道筋で示してくれている。

新演習も別に悪い本ではない。実際、東大理Ⅲ志望は標問よりも新演習に取り組んでいる人のほうが多い。ただし、その圧倒的な情報量の多さゆえ、新演習を使いこなすには膨大な勉強量か有能な指導者、あるいはその両方が必要なのである。難関大志望者の定番的な問題集であるためか、多くの生徒が背伸びして本書に手を出すのだが、実際に本書を使いこなせている人はどれくらいいるだろうか。基本的には全問取り組むのが望ましいし、そうでないにしても志望校の出題傾向と自身の得意不得意を照らし合わせてどの問題を取り組むかを見極めなくてはならない。どちらもできないのであれば、はっきり言って本書に手を出すべきではない、と私は思う。

これらよりも更に難しい問題集に『新理系の化学問題100選』がある。化学の大学入試問題集の中で最も難しいと言われている。実際かなり難しい。世間的には別格という扱いが強い気がするが、実際には理論化学を中心として、新演習よりも更にもう1段階難しいという感じである。まあいずれにせよ東大、京大レベルすら超えており、本書をおすすめできるのは京都府立医大志望くらいであろう。しかし、石川先生が書いただけあって、問題と解説の質は極上である。


過去問

数学、物理に続き、東大・京大受験生は化学も赤本の25ヵ年より『東大入試詳解』『京大入試詳解』がおすすめだ(京大の方は現在旧課程版しかないので注意)。問題が年度別に並んでいる点と、解説の質が良い。ただし、京大の方は最高におすすめできるのだが、東大の方は数学や物理と比べると若干微妙か。いや大して文句はないし良いとは思うのだが、おすすめできる点が数学と物理よりもやや少ない。良くも悪くも無難である。東大化学に関しては鉄緑会の『東大化学問題集』が内容的にはベストではないかと思う。
また、自身の志望校以外に、似たようなレベルの過去問を解くのもありだ。私は京都大学のほかに、東京大学、東京工業大学の過去問もやっていた。知っている人も多いと思うが、昔の東工大の問題は歯ごたえがあって面白い。ただし、あくまで自身の志望校の過去問が優先だ。時間に余裕がないのであれば手を付けないほうが良い。

共通テストの過去問は皆やるだろうが、まだセンター試験から変更されてから日が浅く、過去問が少ない。共テの過去問を完璧にやり終えたらセンターの過去問をやるようにしよう。予想問題や模試の過去問も悪くはないが、問題の質が違いすぎる。センターと共テでは出題形式は若干違うが、問題の根本は同じである。私の恩師も口をそろえて同じことを仰っていたので、これは間違いないだろう。




勉強法

私が書きたいことはほぼ全て数学編物理編に書いてあるので、正直ほとんど書くことがないのだが、思いついたことだけ書いていく。

理論化学の重要性

物理と同じように、化学もまた自然科学の一種である。化学は様々な物質の構造や反応、性質について研究する学問であり、現在実態が明らかになっている物質はすべて原子・分子からできている。原子は陽子と中性子からなる原子核と、その周りを囲む電子によって構成されている。化学反応に重要な役割を果たす電子の振る舞いは電磁気学、量子力学(+統計力学)で説明され、原子や分子の振る舞いもまた、熱力学、統計力学で説明される。すなわち、化学の根幹を成しているのは、物理学なのである。だから、化学を学ぶうえで物理化学=理論化学が一番大事なのだ。理論化学は高校化学の土台であり、理論化学の理解度が無機化学や有機化学の理解度に直結すると言っても過言ではない。だから、化学を学ぶすべての人は、高校範囲を早く終わらせようと躍起になるのではなく、ゆっくりで構わないから理論化学を徹底的に理解するように心がけてほしい。

理論化学で特に大事な内容は量子化学と化学熱力学である。小難しい書き方だが、簡単に言えば電子(と原子核)と熱である。
電子は、上記の通り電磁気学的、量子力学的性質を示すわけだが、ほとんどの授業や参考書では量子力学的な説明が欠如していると言わざるを得ない。だから、先程おすすめした『原点からの化学 化学の理論』などのしっかりとした参考書で、量子化学の基本を学んでほしいのである。化学専攻の方からは多分怒られるだろうが、極端な話、化学は原子間・分子間の電子の振る舞いを考える学問である。すなわち、電子のことをよくわかっている人間は化学のことをよくわかっているし、逆も然りである。かなり暴論ではあるが、高校までならこのくらい大雑把な認識でもそこまで悪くないと思う。
熱の重要なポイントは「熱力学の法則」である。第零法則から第三法則まであるが、とりわけ第一・第二法則が重要で、これらとエンタルピー、ヘルムホルツの自由エネルギー、ギブズの自由エネルギーの定義式より、「熱力学の基本式」が得られる。この4つの方程式により、化学熱力学における多くの現象や性質、それらを示す方程式を説明、導出できる。意味不明な「お気持ち記号」が多くはじめは苦労するが、ここを正しく理解できるかで今後の学習が大きく変わってくるので頑張ってほしい。


丸暗記を極力減らす

無機化学と有機化学は、理論化学と比べて暗記しなければならないことが多い。しかし、理論化学の理解度によって、暗記量は飛躍的に減らすことができる。
無機化学と有機化学にはそれぞれ「総論」と「各論」がある。総論はその分野全体を統一的に説明する理論で、各論は元素や物質別にその性質や構造、反応などを記述したものの総称である。とりわけ各論が覚えることが多いのだが、各論は総論に基づいており、総論もまた理論化学に基づいている。つまり、理論化学をしっかり理解することで、無機化学、有機化学の暗記を減らすことができるのである。
無機化学、有機化学も勉強法は理論化学と同じで、まずは総論をしっかり固めることが重要である。個々の事象を闇雲に暗記するのではなく、基本原理から一つ一つの事象を演繹的に導いていこう。

今まで散々書いてきたが、東大や京大などの難関大ほど、教科書に書いてある基本事項を正しく、深く理解できているかを問う傾向にある。インターネットの普及により、多くの情報が検索することで簡単に手に入るようになった昨今では、賢さとは知識が沢山あることというよりも、物事を体系的に理解できていることにシフトしつつある。名門大学はいつの時代も「知性」に対して真摯に向き合い、探求し続けているからこそ名門大学たり得るのだなと思う。


計算力をつける

化学の計算問題は大変である。正直私もあまり好きではない。だが計算は、自分の力で習慣的にやり続けなければ速さも正確性も向上しない。この記事を読んでいる人たちは、問題を解いているときに最後の計算を飛ばして解き方があっていれば正解にしたりしていないだろうか。計算ミスをしてしまったのに正解扱いして復習を怠ったりしていないだろうか。高校生は計算力というものをおろそかにしがちな気がするが、試験では計算ミスは問答無用で減点されるし、計算スピードの遅さは言わずもがな得点に直結する。普段の学習で絶対にサボらないようにしよう。

正直言うまでもないとは思うが、計算する際は一つ一つの数字や記号の単位に着目しよう(これを次元解析という)。これだけで計算方法が明確になるし、ミスも減る。代ゼミの某有名講師が距離、速さ、時間の計算に使われる「きはじ」にキレていたがもっともだと思う。なぜ小学校ではこんな碌でもない教え方をしているのか甚だ疑問である。




最後に

私は昔、数学や物理と比べて化学は苦手だったし、さして興味もなかった。しかし勉強すればするほど化学の面白さに気付き、成績も上がっていった。よくよく考えれば、ある分子にたった一つの原子を加えるだけで性質が大きく変わったり、同じ種類、同じ数の原子を持っていても、構造が違うだけで性質も違ったりするのは不思議なことではないか。さらに言えば我々の身体も原子の集合体でしかないはずなのに、どうして生きているのだろうか。こういった疑問を解決してくれるであろう化学は、とてもロマンのある学問だなと心から思う。そんな学問を、ただ必要なことを暗記して終わりというのはとても悲しいことではないだろうか。

学び始めてすぐは覚えることばかりに思うだろうし、あたかもそうであるかのように教える教師が多いが、興味と関心を持って化学に接すれば、そのイメージは必ず変わるはずである。その瞬間が、結果的に成績向上の第一歩となるのではないだろうか。頑張ってください。


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