作品世界のビュー。
noteをどう使うかでちょっと思いついたこと。Googleストリートビューとリンクして作品の舞台になった場所を案内する。以前に自分で作っていたホームページには『架空英国』というコーナーがあり、旅先で撮った写真と作品からの抜粋を併せて載せていた。ちょうどいい旅行写真は必ずあるわけではないが、ストリートビューならたぶんある。こんな感じ。
『レデンホール・マーケット』
ストリートビュー http://bit.ly/1kUQitv
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“シティ”はロンドンのど真ん中、ウェストミンスターの東隣の地区だ。ジャックはこの街のどこかにいる。ラムジーはロンドン橋を北に渡り、大火記念碑の下を速足に駆けた。オートバイが雷のような音を轟かせてすぐわきをすり抜けていく。
「ばっきゃろう、この間抜け犬!」
(犬じゃなくて狼なんですよう!)
ラムジーは唇をまくり上げて凄んだが、尻尾はしおしおと後ろ足の間に挟まっていた。シティは思ったよりも広かった。人も車もいっぱいだし、おまけに排気ガスがひどい。
(ジャックさんの臭跡がたどれないよう……)
道路の端をトボトボと歩くうちに不安な気持ちがいや増してきた。おまけに身体が変化したせいか、お腹が空いてたまらないのだ。ちょっと油断するとすぐにジャックを捜すという目的を忘れて食べ物のいい匂いのする方に足が向いてしまう。
匂いにつられ、ラムジーはいつしかレデンホール・マーケットのそばまで来ていた。そういえばガイドブックで読んだことがある。十九世紀に建てられた、華やかなアーケイドとステンドグラスとを持つ市場だ。市場からはありとあらゆる素晴らしい匂いが漂ってくる。市場内のレストランで調理されるさまざまな料理の匂い、新鮮な魚介の匂い、馥郁と薫る調理されない肉の匂い。
_________________________________ 《霧の日にはラノンが視える・1》より抜粋