だから私はメイクする
私はメイクが好きだ。メイクをする時間も、お店でコスメを見ている時間も、学校の授業でヘアメイクのことを教わっている時間もたまらなく楽しい。
だけどメイク中、心の奥底ではいつも「ブスだった頃の自分に戻りたくない」という想いがある。
隠さないと、ブスだった私も、自身のない私のことも。
色んな人が私を「可愛い」と褒めてくれることが増えていく度に、気を抜くと「可愛い私」が剥がれ落ちているんじゃないかと不安になる。
その度に家で、街中で鏡を見て、もうぼんやりとしか覚えていないかつての自分と違う私が写っているのを見て安心する。
大丈夫、私は可愛い。そう言い聞かせる。毎日がその繰り返しだ。
小学生の頃、母親とよく服を買いに行っていた。
お買い物といっても地元はどどど田舎で、毎週末は母親と弟と歩いて隣町にある図書館にいった後、近くの少し大きいスーパーに行って、その帰り道にしまむらに行くのがルーティーンだった。
いつもの様に母達と服屋に行った時。
その時の季節すらもうよく覚えていないのに「この服かわいい!」と母親に見せた後の一言をいまだに覚えている。
「そういう服は可愛い子が着るから可愛いのよ」
母が言ったその一言をなんとなく聞き流すことができず、『お母さんにとって私は可愛い娘じゃないんだ』と、幼いなりに思った。
また別の日、夏に履く用のサンダルを見ているときには「ただでさえ背が高いんだからヒールのあるサンダルなんてやめなさい」とも言われた。
しかしそれに口答えすることや、反抗して履いてやろうという勇気すら私にはなかった。
私の母親似の顔は世間一般的には可愛くはなく、背が高いせいで本当は好きな女の子らしい服や可愛いサンダルを履くことができないのだと思い込んだ方がなんだか楽な気がしたから。
中高生の頃からずっと太くて濃い眉毛がコンプレックスだった。
いくら嫌でも剃ることは校則が厳しかったためできず、少しでも私をブスにする要素が見えるのが怖くて、これでもかというほど分厚い前髪で眉毛を隠していた。
分厚い前髪のせいでおでこにはずっとニキビができていたし、それも見られたくないがために、さらにそれらを前髪で隠す、という悪循環に陥ってしまっていた。
しかしそんな過去とは裏腹、今はセンター分けにしておでこが全体になっているし眉毛は定期的に行っているサロンのおかげできれいに整えられている。
長年の研究で理想の眉の形や書き方に辿り着き、今では色んな人に褒めてもらえる様にもなった。本当にメイクは偉大だ。
メイクを始める前と後で一番変わったのは鏡を見れるようになったことだった。
中学生の頃、文化祭の準備中に一緒に準備をしていた子に何気なくこんなことを言われた。
「〇〇ちゃん(私がクッッソ大嫌いな後輩)がりんのこと『スタイルが良くても顔が残念』って言ってたらしいよ」
今なら「っっはあ〜???????」とすぐにそいつを殴りに行くのだが自己肯定感がミジンコだった当時は「へえ〜そうなんだ〜」と笑ってその場を乗り切るしかなかった。
まあ私の出身中学校は田舎なのもあってほとんど性格が終わってる人しかいなかったので()、今となってはみんな関わることすら金積まれてもごめんだわと思ってしまうレベル。
そんなことする体力と時間すらもったいない。というか本人にこれを伝えてきたやつもよくよく考えたらやばすぎるよね(笑)
だがしかしスタイルにはずっと自信はある方だった。
その時は中2か中3だったけどもう173㎝ぐらいあったし誰が見ても足は長いし。
でも顔が残念って言われてもさあ!!!!???
どうしたらええんやって感じじゃん!!!!!!!?????(語彙力)
そこから芽生えてしまったのは「可愛くなりたいと思っちゃいけない」というなんともひねくれた考えだった。
ブスなことを気にしてはいけない。
みんなが考えているような色付きのリップがどうだとかスカートの短さがどうだとか、私は考えちゃいけない。
中途半端なことをして「ブスが頑張ってる」だなんて思われるのはもっての外だ。
ただでさえでかいのに変に目立ちたくない。
かといって何かして急に可愛くなれる自信もなく、自分の顔を見ないことで「可愛くなりたい」という願望を抱かないようにしていた。
そんな“自意識過剰ブス“がついにメイクを始めたのは大学に進学した2018年の秋頃。
新たに好きなバンドに出会ったことがきっかけだった。つまりは推しの力だ。
そのバンドは当時ライブの終了後にFC会員は抽選でメンバーと会えたり、写真を撮ることができるMEET&GREETを実施しており、それを知った瞬間、まだ当たってもないしライブのチケットすらとっていないのに「こんな顔で推しの横に立てるか!!!!!!」と変なスイッチが入った。
次の日からはひたすらアプリでメイクの順序やおすすめのコスメを調べたり、ドラッグストアに通い詰めたり、友達に聞き込みを行い、コスメを買いまくった。
段々とメイクの時間が長くなっていくと、気がつけば色んな人から「可愛い」と言ってもらえるようになった。
それでもまだ完全にブスから脱却できたとは思えず、日々研究を重ねていた。
そんな私だが、去年の春、好きな人ができたことがさらに私の外見を大きく変えることとなる。
今まで散々出てきた彼とは別の人なのだが、この人も彼に負けず、また癖が強い人で『服はこの色違いの服3着しか持ってない』と言われたことなどをきっかけにころっと好きになってしまった(ガチなんだけど自分でも今読んでみてちょっっと意味わかんないね草)。
しかしその時は緊急事態宣言が発令された真っ只中。
しょうもないLINEを送っても1、2日はうんともすんとも返って来ないし、少しコロナが落ち着いたところで「ご飯に行こう」や「会いたい」と何度送っても彼はその誘いに乗ってくれることはなく(まあその時点で気づけよって話なんだけど)、会えなくなって2ヶ月程度が経った頃にふと「会えんうちに可愛くなってやったらどうや」と思った。
まあその時にバーでのバイトを始めて、そこの店長に「お前は眼鏡のままだと人生9割損してる」と言われたりしたのもきっかけだったのだが。
それを言われた次の日には10年近く着けていた眼鏡をカラコンにした。
さらにメイクの研究をするようになった。
可愛いと思ってもらえるような服をひたすら買いまくった。
猫背を治し、自粛中に増えた体重を元に戻すために毎日筋トレをするようにもなった。
いつ彼に会ってもいいように毎日気合を入れて服を選ぶようになった。
服に合った香水とピアスを毎日つけるようになった。
月1で美容院とまつ毛パーマ、3週間おきにシェービングとネイルサロンに行くようになった。
終いにはずっとコンプレックスだった一重を二重にした。
麻酔で意識がほわほわする中、彼に「可愛い」と言われることを想像し、涙を流しながら手術を受けていた。
まあ流石にこんなに色々したらあっという間に可愛くなった(当社比)。
結局顔面は課金ゲーなのだ。
彼に最後に会って3ヶ月後、たまたま街中で再開したのだが、話しかけた瞬間本当にガチで誰か分からない顔をされたことが嬉しすぎてたまらなかった。
まあ色々あってその2ヶ月後には諦めたのだが。
でもそれから今も大好きな彼に出会ったのはすぐだった。
初めて好きな人と両思いになれた。可愛いと何度も言ってくれた。
コンプレックスだった身長も、モデルみたいじゃん、と言ってくれた。
メイクも、自分磨きも、今まで頑張ってきたことに気がつく度にたくさん褒めてくれた。
頑張りは無駄じゃなかったのだと、自分にようやく自信が持てると思った。
まあ、すぐに別れちゃったんだけど。
彼にいつ会ってもいいように毎日気が抜けない。
朝起きてすぐにその日の気温や天気、授業の時間割に合った服やメイクを考える。
ついでに香水やアクセサリー、ヘアスタイル、靴、必要であれば上着も。
体重を測り、選んだ服を着る。
洗顔後にスキンケアをし、メイクをする前にポーチに入れるリップを選ぶ。
私は基本メイクのカラーを統一しているのでそれと同時に使うアイシャドウなんかも。
メイクが終わった後は髪をセットして歯磨きをし、リップを着ける。
ほぼ完成した鏡の中の自分を見て「今日も可愛い」と言い聞かせる。
可愛い私でいたいがために私は今日もメイクする。
彼が「可愛い」と言ってくれた私で居続けるために。彼が言ってくれた言葉を嘘にしないために。