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死ぬまでに


「死ぬまでにやりたい100のこと」を書き出そうとWordを開き、パソコンと向かい合った瞬間、真っ先に思い付いたのは「元彼と復縁したい」だった。



別れてから2か月半。彼と電話をしている時、どれだけ付き合っていた頃のように話が盛り上がっても復縁について言及する度に彼の態度が冷たくなった。

呆れられているのだと思ってもそう言うことぐらい許してほしかった。


私が彼にわざと嫌われようとぶつけた言葉を「全部覚えているし根に持ってる」と言い放たれても、きっぱりと復縁するつもりはないと言われても、自分の考えを淡々と伝えてくる彼をさらに好きになってしまい、改めて私の限界さを思い知った。

やっぱりこの人しかいないと思ってしまった。

彼が今言ったことがいつも一緒にいるときに吐いていたくだらない嘘の延長線にあるものだと、嘘だと言ってほしかった。

好きになってくれたのも、付き合い始めたのも、別れることになったのも、全部自分が望んだことなのに。

散々彼を振り回しておいていまだに優しさに縋り付いてしまう自分の幼さや愚かさ、弱さが恥ずかしくて、電話越しだったけども初めて彼の前で泣いてしまった。


確かに付き合い始めた日、泣き出しそうな私のために次の日も仕事なのに深夜に自転車を飛ばして会いに来てくれたのに。

私の泣き声が聞こえているのに「それじゃあまたね」と何もなかったかのように電話を切る彼に、私を好きだった彼はもういないのだと突き付けられた気がして、電話が切れてベットに入った後もずっと涙は止まらなかった。




私がもっと男性経験が多かったら、こんな出来事も学生のいい思い出の1ページどころか数行程度の出来事に圧縮できてしまうのかもしれない。

しかしキスもセックスも、好きな人に直接「かわいい」といわれることすら、こちとら20年間生きていて初めてだったわけで。

片思いのプロだった私と比べて、学生時代に浮気されたり、彼女との同棲経験もあるくらいの向こうからしたらなんで私がこんなに泣きわめいているのかも理解できないのかもしれないし、「別れてからも死ぬほど好きだったから死のうと思いました」と私のお粗末な自殺未遂事件を話したら今度こそ完全に距離を置かれてしまうのかもしれない。


彼と私は違う人間だ。

そこを分かっていたから最初は絶対に私はこの人のことを好きにならないと思いこんでたし、だからこそ好きになってからは一直線だった。

自分の部屋が大好きで文化部出身の私とは違い、彼はアウトドア派だし小さいころから親に強制させられつつもずっと剣道を続けていた。

推しのために生きる私とは違い、彼は誰のことも推さず、多趣味で、私の知らない世界をたくさん知っている。

好きなことしか熱中できない、勉強できない私とは違い、彼は好きなことのために自分のしたい以外のことでも、誰かに自慢するためでもなく努力できるし、それが当然だと思っている。

コミュ障で人見知りの私とは違い、周りに溶け込むのがうまくて誰からも好かれている。彼のそういうところが私の尊敬を集めてやまない。


付き合ってから知ったこともあったけれども、太陽みたいな彼は私みたいな人間とは交われない人だと、もし同じクラスにいたら話しかけないタイプの人だとも思ったし、私よりも恋愛経験が多いことにも薄々気が付いていた。

だから、無理やりこちらから彼の手を絡み捕ろうとしてもうまくかわしてくるのだと思った。

たまに話せているだけで幸せだから、眺めるだけで終わってしまう恋なのだと自分の中で完結させようとしていた。


だからこそ彼からの好意を感じた時の時の嬉しさと言ったらなかったし、いけないと思いながらも、付き合うことを今選ばなかった場合、もう私に振り向いてくれないと思い、彼の手を取ってしまった。




「別れたからにはそれなりの理由がある」「復縁してももうお互いの関係がフェアにならない」、『復縁 方法』で調べても、グーグル先生にもついったランドにも書いてあることはそんなことばかり。

だから仲のいい人に会うたびに彼とのことを相談した。


まだ彼のことが好きだということ。

彼の顔を見るたびに触れて欲しい、触れたいと思ってしまうこと。

わざと嫌われるような態度をとって別れたのにずっと後悔してしまうこと。


案の定返ってくるのは「新しい恋に行こうよ」とか「復縁するのは難しいでしょ」という返事ばかりだったけれども、誰かにずっと肯定してほしかった。

彼を好きでいることも、彼のことを好きだからこそそんな態度をとってしまった私も、間違ってなかったよって言ってほしかった。

誰よりも、彼自身に。


そんな私の気持ちとは裏腹に全部伝えても彼の気持ちは変わらなかった。

ドМな私は彼の付き合っているころには聞けなかったような冷たい声にかなり興奮しつつも、もう彼があの頃の彼と違うのなら、もう自分も変わってしまおうと思った。

生まれ変わるレベルで、前好きになってもらった私とは段違いにいい女になってやろうと思った。


まず就活を始めた。自分の目標としている仕事ができる、自分の憧れている会社の求人をしらみつぶしに調べた。

幸い彼が前に大学のキャリアセンターで働いていたため、これを口実に彼にまたフランクに連絡することができるようになった。

3日間徹夜して仕上げ、彼に『添削するところが無い』とべた褒めしてもらった渾身のエントリーシートを送った会社からお祈りメールが来たときはかなり落ち込んだけど、まあ彼に振られた時よりは何百倍も楽だよなと思い、こんなご時世でもめげずに未だに就活に励んでいる。


彼と会わなくなって時間に余裕が生まれたため、色々なことを勉強し始めた。

とりあえず就活に有利と聞いてTOEICを受けることを決め、将来の仕事のためにillustratorの資格も、コスメが好きだからと化粧品検定なんかも取るのを決めた。


ずっと腫れるのが怖くて行けてなかった親知らずの抜歯もついに行ってやった。

案の定口の中が血まみれになったし腫れてしまった上に生理が来ていたため術後は貧血で死んでいたけれども、彼に話しかける口実ができたし歯科矯正にも一歩近づいたので良しとする。


外見面ではついに髪を伸ばすことを決めた。

髪を乾かすのがめんどくさかったりして高校入学後からずっとショートだったけども付き合っていた時に「もう少し伸ばしたらスーパーモデルみたいになるのに」、と彼に言われ、「じゃあなってやろうやないか!」単純な私は思った。

こちとら身長176センチ。酒が大好きなせいで体重はまあまあだけども、なかなかスタイルはいい方だとは思っている。

実践したところ、なんと前髪を伸ばし始めてからめちゃくちゃ女受けが良くなり、バイト中に女の子にかっこいいと褒められたりナンパされることも多くなった。やったねばんざい!


別れてからというか、彼に完璧に振られてからは打たれ強くなったとは自分でも思う。

深夜に酒を飲んで泣いてしまう回数は減ってはないけれども、目の前にぶら下がっている『復縁できない』というどうしようもない絶望に比べたらコロナのせいでバイトのシフトが減ろうが、お気に入りのスカートのホックが壊れようが、クリスマスの予定が推し以外全く無かろうが、私の人生の最重要事項はそれではないのだ。


逆に私は彼を諦めないことで自分が保てているし、一度逆に別れてから【じゃあ復縁するにはどうしたらいいの?】と自分を見つめなおした結果、人生のモチベーションが爆上がりした気がする。

もう嘘を吐かずに彼と向き合おうと、自分の欲をさらけ出すのも「好き」だと何度も彼に伝えるのももったいぶらずにしようと決め、どれだけやんわりと拒否されようが隙あらば彼に常にしっぽを振っているイッヌ状態でアタックしている。

まあ、私の今の状況的に毎日どうしても彼に会ってしまうのと『就活だから』という名目で彼に連絡する口実があったり彼が律義にそれにちゃんと返事をしてくれること。

あと彼のビジュアルが私の性癖に刺さりすぎて日々の私の生きる糧になっている。

ロングコートが似合いすぎてずっと頭抱えてたわ!ありがとうございます!!


あと黒のタートルネック着てください!(わざわざ太文字にすな)


ここまで書いていて「あれ、私のこの片思いくっそいいのでは…?」と思ってきた。

日々彼の供給を受け、嫌々ながらだとしても自分の将来のために好きな人が力になってくれる。

何としてでも振り向かせたいから自分磨きもさらに研究しようと思える。

アタックしつつ、たまにきつい一言をくらってもまあそれも私の原動力(ご褒美)になるので、それもまたよし。(?)


私にとってのいい恋と他の人にとってのいい恋は一緒ではない。

それは彼にも一年後の私にも言えるし、逆に一年前の私が見たら「彼氏できたん!えら!」とどれだけメンタルがヘラろうが酒に溺れていようが『好きな人と両思いになって付き合ったこと』

ただそれだけを素直に褒めてくれるのかなあとは思っているしそれは私もほんとにすごいと思っている(自分で言うな)。


去年の冬、私は絶賛男性不信中で同じ空間にいることも、話すことも、ましてや触れられることなんて考えられなかった。

そんな中出会えた彼の存在にすごく救われていた。

まあ付き合ったその日に「おっぱい大きいな」なんて触ってくるおっぱい星人の彼には分らないだろうがまあね!それを考えると「触れたい、触れて欲しい」と思える人に出会えたことは私の人生にとっては素晴らしい進歩だった。


死ぬまでにやりたいことの100個目はすっと出てきた。

まあ90個目ぐらいから「彼のご両親とご挨拶したい」だとか「彼と手を繋ぎながらデートしたい」とか彼のことばっかりだったし見直してみたら全体でも1/5ぐらいは彼のことだったんだけども。


ずばり「彼とセックスしたい」


我ながら欲求丸出しのやばい願望だとは思うけども、死ぬまでに叶えたいねえ。

叶えて見せようじゃないの。私も彼の人生も、きっとまだまだ長いんだから。


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