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別離 涙の向こうの虹の下、次は笑顔で抱きしめられるように

最後のワーク。
母のいない世界をイメージし、
その感覚に慣らしていく。
愛しているから手放すんだ。
手放した先の幸せを願って。

よし、これで本当に終わりだ。
覚悟決めていこうᕦ(ò_óˇ)ᕤ
↓↓↓

目の前に母が立っている。
母はいつものブスっとした表情…
なにか怒っているのかな?
なにか不満なことがあるのかな?

私は深呼吸する。
笑っててほしい。
なにか声をかけたほうがいい?
どうしたら笑ってくれるんだろう…

母との思い出がよみがえってくる。
母は毎年誕生日ケーキを焼いてくれて、
それは2段の大きなケーキだった。
そうだ、あれは私が2段が食べたいって言ったんだ。

塾にはおにぎりを持たせてくれた。
海苔が湿気ない工夫がされていた。
私が湿気た海苔はイヤだと言ったんだ。

すべてを拒絶して部屋にこもったとき、
枕元で正論をかましてきた。
あれば本当にイヤだった。
黙っててほしかった。

結婚式は自分ごとのように喜んで準備をしていた。
とても複雑な気持ちだった。

母はいつも真っ直ぐで嘘のつけない人だった。
少女のような人だった。
苛烈で強いが、本当はとても弱かった。

ふと目を落とすと、太い鎖が私の足から母の足にのびている。
いつからか、大好きだった母を憎んでいた。

顔をあげると不機嫌な母がいる。
私は母に宣言する。

「私は今日、お母さんを手放して自由になります。
お母さんに出会えてよかった。
お母さんの元に産まれてよかった。
お母さんの娘でよかった。
お母さんが私のお母さんで本当によかった。
ありがとう。
私を育ててくれて、今までありがとう。」

母は視線を落としている。
納得していないのか、受け入れられないのか。
複雑な表情をしている。

寂しい。
涙があふれる。
本当はずっと一緒にいたい。
手放すのは苦しい。寂しい。

でも、母にも笑顔でいてほしい。
私も笑顔で母と向かい合いたい。
だから、もう母を自由にしてあげるんだ。

私は深呼吸する。
一歩前に足を踏み出し、両手を広げて母を優しく抱きしめる。

腕の中の母の背中は広いが、年老いた。
忘れていた母の温もり。
凝った肩。
働き者の体だ。

私は深呼吸する。
抱きしめたまま、母の耳に言葉を届ける。

「私を産んでくれてありがとう。
育ててくれてありがとう。
私はお母さんの娘で本当によかった。
ありがとう。」

母を抱きしめる腕を緩め、ゆっくりと母から離れる。
抱きしめたとき少しこわばった母の体。
どんな表情をしているのか少し怖い。

足もとの鎖をあらためて確認する。
太い鎖。
お互い暴れて、足首には擦れて傷ついた傷跡が残っている。

横を見ると鍵が落ちている。
鎖を解く鍵だ。
私はその鍵を拾い上げ、鍵穴に差し込んだ。

カチャッ…ゴトン…

重たい音と共に枷が落ちた。
ふたりを繋いでいた重たい鎖が、涙とともに地面に落ちた。
足首をさする。
私と母を繋ぐものはもう何もない。
自由だ。

再び母に向き合う。
「お母さん。
あなたはもう自由です。
どこに行ってもいい。
ここに留まってもいい。
どんな選択をしてもいい。
私はその選択を支持します。
あなたはもう自由です。」

私は大きく深呼吸する。
そして一歩後ろに下がる。
母を少し遠くに感じる。

一歩一歩、ゆっくり母から離れる。
ゆっくりゆっくり離れ、私は深呼吸する。
そして母にもう一度ハッキリと伝える。

「私を産んでくれてありがとう。
育ててくれてありがとう。
私はお母さんの娘で本当によかった。
本当にありがとう。」

母は少し泣きそうな顔をしながら、
それでも笑顔を浮かべている。
私の好きな母の笑顔だ。
ずっと見たかった私の幸せを願う母の笑顔だ。

それを確認し、母に泣いて抱きつきたい思いを抑え、私は母に背を向ける。
背中越しに母の気配を感じる。
どうやら、母も私に背を向けたようだ。

一歩足を踏み出す。
母の足音も遠ざかる。
一歩一歩、少しずつ母との距離が遠ざかっていく。
母の気配と足音が遠ざかり薄れていく。

私は母を手放した。
母も私から自由になった。
ふたりとも別々の未来へ向けて、足を踏み出し始めた。

白い扉が見えた。
私は扉を目指して歩く。
この扉の向こうは母のいない新しい世界だ。

目の前に迫った扉のノブに手をかける。
ゆっくりとノブをひき、扉を抜け、後ろ手に扉を閉める。

カチャ

そうして、今までいた母との世界は閉じられた。
目の前に広がるのは新しい世界。
母だけがいない世界だ。

背中を扉に預ける。
流れる涙をそのままに、目を閉じて深呼吸する。
母のいない新しい世界を見る覚悟を決める。

目を開けると、私の大切な人たちが集まってくれていた。
夫、子どもたち、友人、義両親…
笑顔で私をとり囲んでくれた。

母だけがいない。寂しい。
母だけ、扉の向こうへ置いてきた。
涙が溢れてとまらない。
すると夫が私をギューっと抱きしめる。

「よく頑張ったね。
辛かったね。
全部見ていたよ。
素晴らしい決断だ。
本当によく耐えたね。
だから忘れないで。
あなたはひとりじゃない。
そばにいるよ。」

みんなが私を抱きしめ、次々に声をかけてくれる。
少し戸惑いながら、私は安心する。
私はひとりじゃない。
こんなに味方がいる。

私は深呼吸する。
そうして目の前に広がった世界を、あらためて眺めてみる。
母だけがいない世界。
ぽっかりと心に穴があいている。

それでもそんなに悪くない。
寂しさと愛しさが共存している。
あいた穴は大事なもので満たしていこう。
私はひとりじゃない。
軽くなった心で、どこへだって行ける。

心の穴を満たして、自由を満喫して、
私の世界がもっともっと広くなったとき、
新しい世界のもっとずっと向こう側で、
笑顔の母と交わることがあれば嬉しい。

いつか笑顔で抱きしめられるように、
抱えきれない幸せをお土産に用意しておくね。
今までありがとう。
お母さん、大好きだよ。
また会う日まで、さようなら╰(*´︶`*)╯

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