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長い夜。【ショートショート】

カーテンの向こうがほんのり明るくなってきた。

私はスマホを置いて目を閉じる。
夜が通り過ぎてようやく眠気が襲う。

朝はひどい眩暈と頭痛に襲われる。
夜になってもだるくて起き上がれない日々。


学校にいかなくなって、どれくらい経つだろう?


親も先生もしきりに「がんばれ」っていう。
学校に行かなくちゃいけない。
そんなのわかってる。
でも体が動かないんだ。
つらくて。苦しい。

こんな体、もういらない


夜になると不安で押しつぶされそうになる。涙があふれる。夜の闇がするりと体に滑り込んでくる。いつのまにか、手にはカッター。

別に死ぬわけじゃない。

切ったときの痛みだけが「私はここにいるんだ」ってことを教えてくれた。


今日もまた、夜がやってくる。

お母さんは怒ってばかり。私が起きられないこと。学校に行けないこと。手を自分で切ったこと。

ぜんぶ私のせい?
ちがう。
この体が悪い。
私はカッターを見つめた。

ふと、暗闇で何かが動いた気がした。

はっとして振り返るが、何もいない。
いるわけがない。

再び、暗闇で何かが動いた。

今度ははっきり見えた。

それは、大きくて黒かった。
もやもやしている。..口だけが開いていた。

…!

声を出そうとした。
けど、うまく声にならない。

目が離せない。なのに、体は動かない。
そしてそれは、ぞわぞわ近づいてくるようだ。

あ…あ……

口が大きく開く。いいよ。こんな体いらない。だって動けないし。学校もイヤだし。だれもわかってくれないし。こんな私、いらない…!

ぎゅっと目をつぶった瞬間、

たすけて…!

と思わず声が出た。
すると急にドアが開いて、

「まだ起きてるの?」

お母さんが部屋に入ってきた。電気のスイッチをパチンと押す。視界が明るくなる。時刻は深夜2時。


アレはどうなった…?

視線を前に戻すと、あの黒い大きな口は忽然と消えていた。

「あんた、何泣いてんの?」

気づくと目から涙があふれていた。手も震えている。あんなにいらないと思っていた体。なのに。

「こわいゆめ、見た」

というのがやっとだった。

「なにこれ、床がぬれてるじゃない!」

お母さんは雑巾を取りに下に行った。ふとベッドの下を見ると、たしかに黒くてどろどろした水がそこにあった。

夢、じゃない…?

「じゃあ、早く寝なさいよ。」
お母さんが電気を消そうとした。

待って、消さないで!

母の手が止まった。
暗くしたら、またアイツがくるかもしれない。

今日も、朝まで眠れそうにない。




そんなストーリーをテキストに打ち込んだ。

昨日も娘の手にリストカットの傷を見つけた。だからつい深夜にこんな話を書いてしまった。

ガチャッ。娘が部屋から出てきた。時刻は午前2時。

「どうしたの?」

娘の顔は張り付いたようにこわばり、やけに白く見えた。

い、いま、へんな、くろい、のが…

声が震えていた。そんなばかな。私は急いで階段を駆け上がり、娘の部屋のドアを開けた。

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