わたがし【曲からチャレンジ】

「あの子、よくね?」

夏祭り。
かき氷をつつきながら、日陰でダラダラとたむろっていた。

ふと目の前を行く人の群れの中に、彼女を見つけた。同じ中学、同じクラス。髪を肩上でパッツリ切り揃え、まっすぐ下ろされた黒髪。Tシャツに短パン。女の子らしくないが、それが逆に女の子っぽい。

僕は彼女に手を振って見せた。むこうもこちらに気づいていて、はにかむような笑顔で小さく振り返す。

「なんだ、ヤマトの友達か」

友達がニヤニヤしていて僕の顔をのぞき見る。何かを察したらしいが、察しが良すぎるのも困りものだ。

「ただのクラスメイトだよ」

そんなやりとりをしてる間に、彼女とその友達はこちらに近づいてきていた。

「ヤマトも来てたんだねー。何食べてんの?」

「ふわふわしろくまのかき氷」

「あ、うちらも同じだよ!ほんとにふわふわしてて綿菓子みたいだよね」

「祭りきたら、やっぱかき氷だろ」

「ちょっと、イチャイチャしてないでさー、どうする?一緒に回る?」

「ちょ、イチャついてなんかないって!」

ただでさえ暑くてじわじわ汗が流れるのに、彼女たちの笑い声を聞いてるとなんだか余計に顔が熱くなってきた。表情に出てないといいけど。

「あー、まだ友達くるから待ち合わせしてるんだけど、どうする?」

というと、

「そっかー。うちらも向こうにまだ友達いるから、じゃあまた今度ってことで」

彼女はちらっと振り返ったが、そのまま人混みに紛れてしまった。


「いいの?」

「いいよ」

「明日も祭りあんじゃん」

誘え、といってるらしい。勘違いだったら、次に学校行ったときどうすればいいんだ...

でも、土日明けには終業式。そしたら夏休みだ。いま約束をこぎつけないと、二人で会うことなんてないかもしれない。

明日、二人で夏祭り回らない?

とLINEを打ったものの。送ろうか迷っていると、友達の手が伸びてあっという間に送信ボタンを押した。

「ちょ、おい!」

「迷いすぎだろー」

シュッ。

LINEの音。
もう返事がきたらしい。

やばい、開いたままだ。

いいよ。浴衣着ていくね!

はっと気づいて後ろを振りむくと、友達が画面をのぞきこんでニヤニヤしていた。

「よかったじゃん」

「勝手に見んなよ」

これは、ちょっとは期待してもいいんだろうか。いつもボーイッシュな彼女が浴衣を着たらどんな風になるんだろう。頰の筋肉がゆるむのが自分でもわかって手で押さえた。やばい、またコイツに感づかれる。

二人で歩くの恥ずかしいから夜にしよう。夜なら花火も上がるし、手をつなげるかもしれない。なんだか手に汗かいてきたな。

レインボーのかき氷はすっかり溶けてしまって、構わず全部飲み切った。カップの周りからは汗のように水がポタポタしたたり落ちて、地面に濃いしみをつけていた。



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