異質な者たち【橘鶫さん企画】
黒く大きな影が、月に照らされて映し出される。
獰猛な獣のような手足。
硬く鋭利なくちばし。
重厚な羽根で覆われた翼。
ーこれが、私?
私はそれまで、ごく普通の人間として生きてきた。
二十歳を過ぎて初めての夜。
月灯りの下、私の影は太く逞しい脚と、堅強かつしなやかな翼を持つ獣へと変わったのだ。
背中から勢いよく生えた翼は思うままに、四肢は今にも果てまで走り出せそうなほど血が湧き立つ。
翼を動かせば、空をも飛べるのだろうか。
果たして私は空高く舞い上がった。
それを見ていた人々は私に畏怖の念を抱き、私は街を転々とすることになった。
普段は人間だが、満月の夜になるとどうしても外に出て、月の光を浴びたい衝動に駆られる。
月光を浴びると、私は再び巨大な獣となる。
街中を飛び回り、人々はその影に恐怖を覚え、そろって疎んだ。
今日は満月。衝動的に空を飛んでいると、もう一つの大きな影に出会った。奴もまた大きな獣だった。
深紅の炎のような体毛を纏い、金色の目が私を捉えた。仲間だ、と一目見てわかった。
ー奴の名は、フェニックスという。
我々は二人で放浪することにした。聞けば他にも仲間がいるという。
王冠を被った滑らかな肌を持つ蛇、バジリスク。
額に大きな1本の角を生やした、ユニコーン。
禿鷹の羽根と鷲の爪を持つ老婆のような姿の、ハルピュイア。
前半分が馬、前足に水かきがついて胴の後ろが魚の尾になっている、ヒッポカムポス。
我々は普段は人間だが、満月の夜になると妖しい獣への変化を遂げる。
人は、自分たちと違うものを徹底的に排除しようとする。
我々に彼らを害する意思はないのだが、
この鋭利な牙が、
獰猛なクチバシが、
巨大で異質な体が、
恐ろしくて夜も眠れないらしい。
こんな姿でも、彼らと同じように本を読み、音楽を聴き、歌を歌い、踊りを楽しみ、花を慈しみ、人を愛すというのに。
さらに彼らは、同じ人間さえも排除することがあるという。
同じことは、そんなに重要だろうか。
違うことは、さほどに忌み嫌うものか。
ー我々の場所は、ここにはないようだ。
我々は土地を求めてさすらった。人のいない地を求め、その翼の羽ばたきにまかせて、彼方遠くまで。
そしてようやく見つけた場所。世界の真ん中にある、宇宙(そら)を覆うほどに巨大な樹のたもと。
葉が光に揺れて優しく歌うように、
ゆらゆらと柔らかい風に包まれるように、
我々を迎え入れてくれた。
そこは、ユグドラシル。
世界の始まりの木。
そうしてグリフィンはようやく、翼を休める安寧の場所を見つけた。
⬇️こちらの企画に参加しました(8/31まで)❗️(橘鶫さん)