呼び出すお客様③
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電話があった次の日、私は約束通りF様の部屋に行った。F様はすぐさまガスコンロを見せてくれたが一見何の問題もなさそうだったので
私「どの辺が気になりますか?今確認させて頂いたところ火力の強弱調整も最大火力の加減も危険ではなさそうに感じますが・・・」
と言うと、
F様「見ててください、ここからなんですよ。」
と言ってF様はコンロ真上に付いている換気扇のスイッチ(弱)を押した。すると・・・
F様「ほらほらほらっ!!」
と半狂乱になりながらコンロの火を指差すので見てみると、換気扇の吸い込みによって先ほどより少しだけ火が上部に揺れているコンロの火が目に入った。
F様「これよ!こんなに火が揺れちゃ危ないじゃない!?火事になったら大変よ!!」
と言って、F様は換気扇の強さを今度は最大にしてみせてくれた。
コンロの火は確かに先ほどより大きく揺れていたが、炎が舞い上がっているわけでも料理中の使用に支障が出そうにも見えなかった。
私「確かにF様の仰る通り換気扇の吸い込みは一般的な物と比べて少し強いようですね、火が揺れるのも目視確認できました。ですが危険なレベルでは無さそうですし、もし怖いようであれば換気扇は弱でもこれだけ吸い込みが良ければ十分効果があると思うので弱で設定の上、火力をもう少し下げてみて・・・このような感じでご使用して頂くのは如何でしょうか?」
と実際に調節しながら提案をしてみると
F様「ダメダメ。怖くて使えません!換気扇、取り替えてくださるよう大家さんに言ってください。」
との要望が飛んできた。
(なんと・・・。換気扇交換って本気?いや、こりゃ本気で言ってる目だな。どうしよ〜大家さんやってくれるのかな・・・と言うか換気扇丸々交換っていくらするんだろう。ざっとでも値段調べた方が良いよなー。あ〜怒るかなぁ大家さん・・・)
と一気に色んな考えが頭の中でブワッと広がったが、なんとか一言
私「分かりました、大家さんに聞いてみます・・・。」
と言い、私はF様の部屋を後にしたのだった。
そしてその日は事務所に戻り、一連の流れを上司に伝えるとすぐさま上司が大家さんに掛け合ってくれた。すると答えはなんとOK!
特に壊れてもいない、むしろ通常の物よりをしっかり匂いを屋外へ排出してくれそうな優秀な換気扇を丸々新しいものと交換してくれると言うでは無いか。
(ひぇ〜!や、優しい!!)
私が大家なら使える設備を問題も無いのに交換など絶対にしないだろう。そんな要望を聞いていたらキリが無いし、何より際限なくお金がかかってしまう。
だが、私の考えは関係ない。大家さんが良いと言うならそれで良いのだ。これで交換しないと言われてた方が入居者と揉めることになるのだ、本当に良かった。
こうして私はすぐにF様に連絡をし、工事の日程調整をして、換気扇問題は無事幕を閉じたのだった。(勿論F様は大喜びだった)
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その後は、「屋根から異音がするから調べて」「蛇口が気に入らない」「トイレが古すぎるので最新のにして」「モニター付きインターフォンが必要」「鍵が古いので防犯性の高いのに変えるべき」「カーテンレールを増やせ」等々、大小含めると書き出すのも辟易するほどの要望やそれに伴う呼び出しに翻弄される毎日を送っている。
なんともしんどいが仕方ない、私のお客様だ。勤めている限りどこまでもお付き合いさせて頂こうじゃないか。
これが私の仕事なのだから。
呼び出すお客様【完】
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