#7 初めての「カンメン」
監督面接、略して「カンメン」。
所謂業界用語というもの。
監督面接とは、AV女優さんの人となりを監督やプロデューサーが直接見て、話して、確かめてどんな作品を作るか、その方向性を決めていくための打ち合わせである。
単体女優さんは専属契約を交わしたメーカーさんから月一本のペースで作品を出す為、それに合わせてカンメンも必ず毎月行われる。
先日、某メーカーさんとの契約が決まり、専属女優としてデビューする事となった私は、そのデビュー作のカンメンの為に事務所に招集された。
今日はカンメンの前に、事務所でもう一つ用事があるらしい。
それはマネージャーさん達との顔合わせ。
私の所属している事務所では、専属女優担当のマネージャーと、企画単体女優担当のマネージャーの二チーム制でマネジメント業務を行っている。
私は専属女優として活動していくことになったので、前者のマネージャーさん達にお世話になるとの事で、今日はそのチームの全員との顔合わせがあった。
一人の方とは契約の手続きなどを行った際に既に面識があったので、今日はその他の三人の方を紹介してもらう。
軽く自己紹介がてらお話をして、質問などを受けた。
「自分はどんな風に"エロい"と思う?」
この質問に対し、私はその場では納得のいく応答が出来なかった。
それが何故か考えた時、私が事前に書いていたあの"志願理由書"の中には、自分の"エロさ"を伝える、相手に想像させる為の具体的な言葉が圧倒的に足りていなかったのだ。
"自分の中のエロ"よりも先に、"エロ以外の自分"が届いてしまっている。
とんだ誤算だった。
毎年何千人もの女の子がデビューをしては引退していく。
入れ替わりの激しい業界だからこそ、そこで生き残っていく為に必要な"個性"の探求を意識し過ぎた結果、エロを生業にしようとしている身にもかかわらず、私は一番大切なはずの事を既に忘れかけていたのだ。
一にエロ、ニにエロ、三、四がなくて、五にエロ。
語呂が悪いけど、つまりはこーゆうこと。
とってもシンプルで、だからこそとっても奥深い。
AVでは、「自分はエロい女です」と、その事実を身体と言葉で相手に伝えられる演技力や表現力が重要なのだと学んだ。
マネージャーさん達との初の顔合わせは、「自分はエロいんだ」といういつかの自覚と自信が改めて呼び起こされた、とても有意義な時間になった。
そうこうしているとあっという間にカンメンの時間に。
急いでタクシーでメーカーさんの会社まで移動する。
初めてメーカー周りに行った時は夜だったからか、お昼に見る会社の建物に前とは違う印象を受けた。
「あれ、こんなに粛然とした感じだったっけ…」
でも、一歩中に足を踏み入れれば、初めてこの会社に来た時の、あのなんとも言えない浮遊感が甦った。
ちんちくりんな私なんかには似つかない高級感に圧倒されて、地に足つかないあの感じ。
中に通されると一足先にプロデューサーさんと初対面。
業界でも有名な敏腕プロデューサーさんで、私もその存在は認知していたけど、まさか自分のデビュー作を担当してくださるとは思ってもいなかったからビックリ仰天、、!!
契約が済んだ後、監督さん(この方も自分の知っている方でオドオド💦)とも合流し、私がメーカー周りの時に書いた資料等を元にデビュー作の話し合いが進んでいった。
メーカー周りの時にも思ったのだけど、この業界の方々は皆、何事も無いような顔をしてどエロい言葉をポンポンと連発するから、正直なところ私は少し心の準備が必要になる時がある。
不快な気持ちになるとかでは一切無く、ただ自分がそのような言葉を言う事・言われる事に対しての羞恥心が捨てきれていなかったり、唐突に発せられるエロい言葉に対する耐性がまだ出来上がってないからか、何だか言葉責めの羞恥プレイを受けている感覚になるのだ(でも嫌いじゃない)。
一般社会ならセクハラで速攻干されるような内容の話(褒め言葉です)を、お互い真剣に話し合っているこの異様な光景を思い出すだけでもシュールで笑えてくるのだが、同時に、今ここにはきっと世界中で最も平和で楽しい時間が流れてるんだろうと心の底から思ったりもした。
それもまあこの業界の人からしたら通常運転。
四六時中エロい事について本気で考えている人の姿は、私の目にはとてもかっこよく映った。
(かく言う女優の私こそ一番のエロの体現者なのだけれど…)
勿論、今回も沢山Hなワードが飛び交い、その度に私はキョドっているのがバレないよう、必死に会話にしがみついた。
でも基本はお二人ともフレンドリーに接してくださり、和気藹々とした楽しい時間がますます撮影日を待ち遠しいものにした。
カンメンも無事終わり、帰り道にメーカー周りの時に面接を担当してくださった方と偶然再会する事も出来た。
私の事を覚えていてくださったようで、すごく嬉しかった。
思い返してみると、今日も沢山の人と会った。
初の顔合わせをしたマネージャーさん達は勿論、事務所で働く方々にもお会い出来た。
その中には初めて自分の裸の写真を撮ってくれたカメラマンさんもいて、直接お話出来る時間はなかったけど、優しい目線を送ってくれてとても温かい気持ちになった。
カンメンの前にタイミング良く社長ともお会い出来た。
初めての事務所面接、メーカーからの条件提示。
デビューまでの重要な場面で何度かお世話になった社長に、改めて嬉しい報告が出来て誇らしい気持ちになった。
こうやって、人との出会いやご縁がどんどん積み重なってこの仕事をしていくんだろうな。
そんな漠然とした未来が見えた気がした。
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