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What a beautiful people.

電信柱に寄りかかって真昼間から国語辞典と睨めっこするおじいさん。
折れたヒールを片手に持ち、素足で白線の上を歩くスーツ姿のお姉さん。
電車の中で涎を垂らしながらずっとこっちを見てくる赤ん坊。
トラックの荷台に足だけ出して昼寝する工事現場のお兄さんと、通行人より彼を見守るガードマンのおじさん。
三人で一つのパフェを囲む喫茶店にいたサラリーマン。
道の真ん中で泣きながらキスをしていた外国人の女性二人。
公文のリュックを背負って爆走する小学生の男の子。
ピンクの髪飾りにピンクのワンピース、ピンクの靴でピンクの自転車を漕いでいたダウン症の女の子。
エプロンを付けたまま麻雀している近所のおばあさん。
首輪が付いているくせに一日中駐車場で寝ている猫。
カメラの前で、セックスをする私。

目を見張るような楽しさ、愛おしさ、その美しさ。
ずるいじゃないか。
生きているだけで、こんなにも気高い。
こんなにも尊い。

いつだって強く思う。
この世界は"クソ"みたいな事で溢れ返ってるけど、それなりに面白いし、どう足掻いても美しい。
だから、誰が見ても美しくなければいけないなんて事はない。
完璧は退屈で、味気ない。
あなたの歪さは、あなただけのものであればそれでいい。
それに、誰だって必ず持っている。
他の何にも変え難い、あなただけの美しさ。
私だけが知っている、あなたの美しさ。

それは例えば、光が当たると金色に見える産毛だったり、眉間にシワを寄せる笑い方だったり、栗色の髪を梳かす横顔や、柔らかな肌に乾いた唇、生え際のほくろと、耳に開いた小さなピアスの穴、少し気だるげな歩き方、本のページをめくる指使い、私を呼ぶその声。
深いほうれい線は、あなたがよく笑う人だと教えてくれる。
生えかけの髭は、頬に触れると痛みで記憶を呼び戻す。
お腹の肉割れは、私たちを産んでくれた強さの代償。
身体中のシミは、太陽に愛されていた証拠。
ふくよかな腕は、誰かを抱きしめる喜びを知っている。
手首の線は、あなたのせいじゃない。

その人だけの口癖や、仕草や、眼差しが、一緒に時間を過ごす中で見つけたささやかな瞬間が、何よりも特別で、輝いて見える。
その全てを忘れないように、丁寧に、丁寧に思い出す。
何度だって思い出す。
そんな誰かの美しさに触れる度、私は色を取り戻す。
朝起きて、何かを食べて、何処かに行って、誰かと話して、何かを考えて、そしてまた寝るまでの、何の変哲もない日常が、ちゃんと色付いて見える。
ちゃんと生きていると感じる。
私に色を取り戻してくれた美しい人々に、一生分のありがとうを言えるまで。
それまで私は、もう少し頑張って生きようと思えるんだ。


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