もうやめる。全部やめる。
ステージ上の子どもたちに拍手を送りながら、私は決めた。
もうやめる。全部やめる。
この日は幼稚園2学期最後の登園日、そして年中さんのお遊戯会の日であった。
ほとんどの子に「うさぎ」や「きつね」などの可愛らしい動物役が割り当てられる中、我が娘の役は「雪」。
「雪の妖精」ではなく「雪」。
もはや生き物ですらなくなってしまった我が子がどんな演技を披露してくれるのか。
当日まで寝る前に何度も「雪」が歌う歌や、セリフを披露してくれた。だが肝心の、どんな流れでどの場面で、何を受けてのその演技なのかが質問しても、その答えは全く要領を得ず、詳しいことは何もわからないまま本番を迎えることとなった。
幕が上がると、娘はなんと1番目に舞台袖から登場した。
完全に油断していて変な声が出そうになった。
娘を含む3人の「雪」役の子が出揃うと、何度も何度も聞かせてくれた歌を歌い出した。
笑顔、笑顔、笑顔。
プレ保育の時に母子分離も親子活動もできず、先生の言う、「みんな上手にできましたね!」の「みんな」の中に一度も入れなかった娘。
年少に上がっても、毎朝年長の姉と離れるたびに号泣して、姉のクラスに向かおうとしては先生に抱き止められていた娘。
その子が今、こんなにも笑顔で踊り、歌い、楽しんでいる。
その笑顔を見て、決めた。
この子のためだと思っていたけど、知育もひらがなも数字も全部一旦やめよう。
少なくとも明日から始まる冬休みの間は、「何かができるようになるための何か」を一切やめよう。
賢くあることがこの子を救うと思ってるけど、もうやめる。全部やめる。
手先が器用になれば、言葉を自由に操れるようになれば、〇〇できるようになれば…この子が少しでも生きやすくなる。まだそう信じているけど全部やめる。
年長への進級を控えた2024年12月18日、私は全ての知育教材と子育て本を封印した。
これは、この日から彼女の入学式の日であろう2026年4月6日までの474日間の成長(+その他いろんな思いの丈)を綴る、誰1人、結末を知らない記録である。