ショートショート:ある猫へ
ーーーある猫へ。ーーーー
あるところに白い野良猫がいた。
彼女は誰よりも飼い猫にあこがれていた。
ひもじいくらいとはおさらばして食べるものに困らない、そして、さみしい夜を一人で過ごさなくていいように、飼い猫になることにあこがれていたのだ。
ある日小学生の男の子がその猫を見つけると、猫に餌をやろうと思いついた。
その男の子は家に帰るとおこずかいでキャットフードを買ってその猫に与えた。
猫はうれしかった。
男の子はその猫を自分の家の近くの林で飼おうと思い立った。
そうして男の子は餌をあげながら猫を雑木林に連れて行ってミルクと餌をその場に残してこう言った。
「ごめんよ。君を家には連れていけないんだ。理解しておくれ」
猫はうれしかった。
ひとから餌がもらえたこと、撫でてもらえること。
これが人にやさしくいしてもらえることなのかとついぞ嬉しかった。
その男の子は長居はしていられなかった。
雑木林の近くにある男の子の家で彼を呼ぶ声がした。
「お母さんがよんでる。行かなきゃ。ここでおとなしくしてるんだよ」
男の子は初めは時間を見つけては雑木林に足を運んでいたが、
次第に遠のいていき来なくなった。
猫はさみしかった。
なんども鳴いてみたりしたけれど彼は来なかった。
そうして猫はその雑木林を去ることにした。
雑木林を出て道路を歩いていると、一台のトラックがこちらに向かってくる。
猫は硬直しその場に倒れた。
ある猫の一生はそこで終わりを迎えた。
猫は悲しくて、霊体となった。
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ある日、猫は少年の家に行ってみた。
すると少年は大きくなっていた。
見れば悪魔にいたずらされている。
彼は猫が死んだ日、母の車でその道を通っていた。
そしてそこに倒れる猫を見て、罪の意識が芽生えていたのだ。
悪魔たちはそれが大好物だった。
悪魔たちは少年の罪悪感を利用し、いろんなことを吹き込んでは少年を苦しめて遊んでいたのだ。
ある日悪魔たちは少年が猫と同じようにトラックに轢かれるシナリオを作った。
そうしてその日が来る。
少年は横断歩道を歩いているとトラックが突っ込んでくる。
少年の体は硬直して動けなかった。
その時、猫の声がして、体が宙に浮いた。
少年は不思議なことに無事だった。
あたりを見ると人間大の猫に抱きかかえられていた。
少年はその猫の目を一目見るとあの時の猫だとはっきり分かった。
「危ないよ」
猫は言う。
「君は」
「何も言わないで」
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その猫は悔やんで倒れたものの恨めしいものにはならなかった。
なぜならその猫は
「これでやっとあなたといれる」
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「玄関の前まで行ったのを覚えてる?」
「ああ、ごめん、僕の家は弟が喘息で猫が飼うことができなくて
どうすることもできなかったんだ」
「私、あなたに飼われたかった」
「ごめんよ、、、、」
そういって彼は涙を流した。
「あの頃はまだあなたも小さかったし、私もおさなかった」
少年は涙を流す。
「ちょっと待ってね。」
猫は大きな美しい目で少年の方を人にらみすると、悪魔たちは苦しみはじめ
その首元を猫が食いちぎった。
「なにをしたの?」
「秘密」
そういうと猫は笑う。
「私、もうここにいられないの。あなたともこれで最後よ」
「どうして!僕はまだ君に!」
「私、最後にあなたの飼い猫になれてよかった」
そういうと喉をゴロゴロならして彼に頬ずりをする。
「じゃあね」
「待って!」
すると猫は消えていった。
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彼はその後その猫の墓を建てた。
空は青々しく少年を照らしていた。