限りなく透明に近いイエロー
※食事中の方はご注意ください
私の名前は片山堅三郎。生まれて初めて大腸内視鏡検査を受けることになった。
大腸内視鏡検査とは、腸内を空にした後、肛門から内視鏡を挿入して大腸内部を観察する検査だ。肛門からの挿入には多少の抵抗があるが、大腸に悪性のポリープがあったら一大事。そんなことは言っていられない。
検査の準備は前日から始まる。前日は消化の悪い食品、つまり食物繊維を含む健康的な食材全般を避けなければならない。普段から食事に気を使う身としては、食べられるものが極端に限られてしまう。結局、白米・卵・ヨーグルト・水だけで一日を凌いだ。
夜8時、病院から渡された下剤を水に溶かして飲み干す。
翌朝、病院で日帰り入院の手続きを済ませると、いよいよ腸内を空にする作業が始まる。まず2リットルの下剤水を約2時間かけて飲み干す。「生ぬるいアクエリアスを極限まで薄めたような味」の下剤水を飲むのは予想以上に辛かったが、ここで弱音を吐くわけにはいかない。
便意を催すたびにトイレへ駆け込む。ここで注意すべきは、すぐに水を流してはいけないこと。排便後、備え付けのナースコールで看護師を呼び、排泄物の状態をチェックしてもらう必要がある。看護師に排泄物を見せることへの抵抗感は、この非日常的な状況の中では些細なことだった。
「片山さん、まだ全然うんこですね」
看護師から厳しい評価が下る。最初の排便なので当然だ。部屋に戻り、例の下剤水をちびちび飲み始める。この過程の繰り返しが、腸内を空にする作業の全てだ。
2回目の排便で気づいたのだが、何度もお尻を拭くと肛門への負担が大きい。そこで、フェザータッチでそっと拭くよう心がけた。
「まだ粒々が残っているので、もう少しですね」
2回目のチェックも不合格。ほとんど液状になってきたが、小さな粒々が混じっていた。これらが消え、完全な水様便になって初めて合格となる。予想以上に骨の折れる作業だった。
3、4回目の排便でも微かな粒々が残り、合格には至らなかった。
「片山さん、時間的にあれなので、浣腸にしましょうか」
午後も遅くなっていた。残り時間はわずか。看護師は最終手段として浣腸を提案してきた。
「看護師さん、最後にもう一度だけチャンスをください。それでダメなら浣腸で構いません」
私は自力での最後の挑戦を選んだ。下剤水を飲み干し、トイレという名の戦場へ向かう。これが自力排便のラストチャンス。便器に腰を下ろし、目を閉じて深呼吸をする。心の中で「自分を信じて」と何度も繰り返しながら。
シャッシャシャーーーーーーッ
最後の排便。まるで尿のような便が肛門から噴き出す感覚。その瞬間、勝利を確信した。
それは限りなく透明に近いイエローだった。