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はじめての最後#20

ティックトックから流れてくる
“男が沼る女3選” とか “脈アリ男性の行動5選” とか
流れてきたやつを食い入るように観たら
オススメに次々と…..
勝手にチョイスしてくれるのは、私が興味ありそうと思われた訳で。
どれをみても、当てはまらないし。
一般的には当たるのかもしれないが、私のだいすきな彼はちょっとおかしいから当てはまらないはずだ、と
思おうとしている沼られていない痛い女は私です。

今日は男の面会に行った。
2週間ぶりに見た男は相変わらずだった。
2人で最後に観た映画は「すずめの戸締り」だったが
この2週間の間に、受刑者に向けた娯楽として、その録画か何かを観たらしい。
「観てたら知らない間にずっと泣いてた。別にストーリーに感動してないのに笑えるだろ。でもなんか娘や息子のこととか色々思い出してきてさ。しかし映像はやっぱり映画館が最高だったな。
……早く帰りたいよ。」
と、泣きそうな顔で言い、弱々しく微笑んでいた。
この男が私の元へ帰ってきたら、私は彼を思い出さなくなれるのかな。
出所後の就職先を斡旋されていると言っていた。
今まで自営でやってきた男は、会社員になることが出来るのだろうか?
前途多難なこの男の人生に、私という支えはなくてはならないはず。
あんなに、全力で愛した。あれ、過去形…
いや、言葉のあやだ。
今だって愛してるよ。男のためになることをすることに、見返りは求めない。私に出来ることで男が幸せになるのなら、いとわない。

でも
今私の胸を焦がすのは、この男じゃなく、彼だ。


すずめの戸締りね、何度もNetflixでもう一度観ようかと思ったけど、あなたを思い出すから観なかったのよ。子供達にデートに行くといって久しぶりに出かけて観た映画だったよね。あなたが突然消えて、あなたを思い出すことは排除した暮らしをしてきたから。
そうしたら
楽だったのよ。
いいえ、違う。
そうでもしないと息さえできなくなりそうで。
あなたが何でも美味しいと食べたから、私は食事を作ることが出来なくなった。何を作ってもあなたを思い出すし、あなたが消える前の日に使った揚げ物の鍋は、油も変えずホコリをかぶった。
子供たちにどうやって食事をさせたらいいのか、情けなくて情けなくて、涙が出そうな時は裏庭に駆け込んだ。
そこから地獄のような日々が何ヶ月続いたんだろう。
未だに克服できないのは、家でインスタントコーヒーが飲めないくらいだよ。
何年もずっと、喧嘩をしても暑くても寒くても、毎朝必ずあなたが入れてくれたインスタントコーヒーの香りでうちの朝は始まっていたから。
あの香りはあなたが帰ってきたら、また味わうでいいって決めたから。
そうこうしているうちにね、好きな人が出来たの。

って…言えるかよ。
あの男の息の根を止める行為だ。
やっぱり今も愛してる。
色んなことを乗り越えてきた男との絆は、かけがえのないものだもの。

だけど
自分で振り返ってみて思うのだけれども
思えば私の人生はいつだって、積み重ねた絆を、産み育ててきた子供さえも、私の心変わりの抑止力にはならなかった。子供たちは私が守ればそれで良かったし。
それは元夫との間、次の夫との間、全部そうだ。
今愛するこの男は、元夫から私を奪った。
2番目の夫との国際結婚という大きな壁を乗り越えて、海外にいる親兄弟と必死でコミュニケーションを取って、書類を送りあって、不備が出てイミグレーションからの帰り道に大泣きしたり、あの時だってとてつもない挑戦だったはずなのに、そこまでしても一緒の人生を歩もうと思ったのに。
男との出会いで私はいとも簡単に夫を捨てた。


私とは、そういう人間なんだった。
怖すぎる。

だけど今回は違う。
まず大前提として。
私が恋する彼は私を選ばないし、私も彼との未来なんか全く想像つかない。
私も歳をとってエネルギーが弱くなっているのもある。阻む壁をぶっ壊して自分の道を切り開くようなロックな生き方にも、もう疲れた。
色々ありすぎた。
それに
今までと違うのは、男を見捨てられる状況では無いということも大いにあると思う。

ただ、今は素直に、彼に恋をしている。
胸が痛くなるほど。
今だけ、今だけ許してね。
彼の人生に、私とのことを刻みたいの。
叶わない恋を生まれて初めてしたのよ。
この恋を乗り越えたら、どんな自分になれるんだろう。
彼とあと何回会えるのか?
彼は会おうと言ってくるのか?
もしかすると、ハロウィンが最後になるかもしれないような気さえするほど不確かな関係だけど。
でも
私のジェットコースターみたいなハートは、少し成長した。
今は、2人でいる時の彼を、信じようと思う。
無責任でも、遊びでも、あの瞬間だけ、でもいい。
私だけを見つめていた彼の気持ちを信じる。

また男の面会を終えても、まだ恋の炎は消えない。
今日も彼がだいすきだ。

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