はじめての最後#番外編
もうひとつのストーリー。
今日はエビマヨを作り、さつまいもご飯を作り…
ブルーノマーズをお供にノリノリで食事の支度をしていた。
いつもの友人から着信。
「アイツがご飯いこって。今日こそはけむりもいっしょに行こ」
アイツとは…
実は、私の男が収監されてから今回の恋に出会う前、初めに心動かされた人がいた。それがアイツだ。
でもそれは、恋ではなかった、と思う。
アイツは既婚者で、元はと言えば数年前に、私の顧客を通じて軽く飲みの席で同席した5つ年下の男。
男が居なくなった後、友人と飲みに行っていた所で偶然再会した。
「あ〜あの時の」で、当時不倫男と一時的に別れて寂しかった友人を飲み友として紹介して、それから3人での付き合いが始まった。
ほぼ1年前のことだ。
初めは、私以外の2人で頻繁に飲み友として遊ぶようになっていた。
あぁ、いい出会いでよかったなと素直に喜んでいた。きっかけとなれたことが嬉しかった。
そのうちに、バランスよく友人と私の都合がいい方を誘うようになったアイツ。
3人で、が基本だったが、昼勤夜勤交代制のアイツは、ランチは私。飲みは友人。と言った具合に交互に遊ぶことも増えた。
とにかく楽しかった。
3人でクリスマスプレゼントにお揃いのスリッパを買ってみたり、お揃いのロゴTを着て遊びに行ったり飲みに行ったり。友人が不倫男とヨリを戻す時や喧嘩した時は、2人で駆けつけて「やめとけ」や「好きなら勝手にしろ」だと励ましに行ったり。
アイツのお父さんが倒れた時は、友人と駆けつけて車の中でお父さんの無事を祈り。その後お父さんは帰らぬ人となったが、その時も葬儀の後で知った私と友人は、また3人で集まり一緒に泣いた。
この時も、アイツは友人に先ず連絡した。
友人曰く、結構あっけらかんと話してたよ、強がりかな?と。
すぐに電話をかけて、なんで私にも言ってくれないのと憤慨すると、
「けむりに言ったらけむり泣くだろ?
けむりが泣いたら俺もまた泣いてしまう。」
そう言った。
結局その後すぐ会って、一緒に泣いた。
その前後から、少しずつ私との時間が増えていった。
週末は毎週一緒に過ごしていた。
うちの娘にも会って、3人で食事もお出かけもした。
息子にも会って、息子の就職活動にも色々と相談に乗ってもらった。飲んだ帰り、息子に迎えに来てもらうこともあった。
ちなみにアイツに子供はいない。
2~3ヶ月ほど常に一緒だった。
この頃は、朝夕、出勤や退勤のタイミングで電話もかかってきた。
アイツのルーティンに私が存在したし、私も受け入れていた。アイツの誘いがあればすぐに飛んで行ったし、買い物やお出かけも、いつも一緒だった。
友人は、そんな私達を、祝福?していた。
ただ、アイツにも男の存在は言っていなかった。
元彼という存在として、嘘をついて話しておいた。
でなければ、うちの子供に会った時やうちに来た時に、それらしいものが存在している気配が隠せないため、未だに忘れられない男がいる体にしていた。
そんなアイツから今夜のご飯の誘いだが。
そもそもこの数ヶ月、アイツは私ではなく友人にしか連絡を取らなくなった。
その理由は…
いつも一緒にいた頃、アイツは酔って2人きりになると、ふざけてキスをするようになった。
それが何回も続くようになり。
酔っては電話をかけてきて、眠るまで電話をし続けるような夜もあった。毎日飲むから毎日かかる電話。
高校の同級生にも紹介されたり、いつも一緒だった。
スキンシップも少しするようになっていた。
友人には最初から正直に伝えていた。
友人は肯定的だったが、私の男が帰ってきたらアイツが可哀想だと心配していた。しかし今は身を委ねたらいいと言ってくれていた。
ある日3人で旅行しようと計画し、宿も取った。
そんな矢先の出来事。
いつもアイツと2人で行っていた岩盤浴に、アイツの奥さんの友人がいたらしい。
見られて、いたらしい。
それをきっかけにLINEを見られ、問い詰められ、離婚騒動にまで発展した。
ただ、奥さんが注目したのは私ではなくアイツが言い寄られていた別の女だった。
岩盤浴もその女性ということで誤魔化せた。
その時、アイツは友人に連絡し、私には内緒にして欲しいが奥さんの監視がきつくなっていると相談していた。もちろん筒抜けだったが。
私に知れると、心配するから、とのこと。
そのすぐあとに私の誕生日がきて、アイツはケーキを届けてくれた。
そのケーキだけど。
誰かと一緒じゃつまらないと言って、行きつけの居酒屋のバイトちゃんがパティシエ志望だったことでわざわざ相場より高いお小遣いをあげるからとその子にお願いしたケーキ。
奥さんがその居酒屋に迎えに来た時に、バイト仲間が「わざわざどなたのケーキなんですか?」なんて言うものだから、またひと悶着あったのは後日友人から聞いた。
私には、ケーキを届けてもらったその時にようやく奥さんと揉めてる件を話してくれた。
「じゃあしばらく連絡しない方がいいね」
「奥さん大事にしな」と言った。
モヤモヤしたし、素直に寂しかった。
その後は今までより連絡が減り…
だけどアイツは懲りずに会社の携帯で連絡してきたりした。結局、こっそり会えそうな時間に私たちは3人でまた飲んでいた。
さすがに2人で会うのはランチだけに減っていた。
その後が大変だ。
こうなる直前に予約した旅行は、キャンセルしようと言っているのに、アイツは絶対行くと言ってきかない。友人もキャンセルは嫌だと駄々をこねた。
決行した旅行先で、友人の目を盗み同じ露天風呂に入った時、べろべろのアイツは私の背後から胸を揉みしだき、キスをして、やべぇと耳元で呟いていたが、友人がいるので当然それ以上はなかった。いつも以上に酔っ払ったアイツは早々に寝たし、あとは楽しい密かな旅行だった。ちなみに、奥さんには夜勤週に1日休みを取って誤魔化した。
大人の男1人、女2人で宿を取ると、フロントでも食事の場でも大変接客する方が楽しそうだった。
間違いなく3Pの客、と思っていただろう。
カオスな旅行を存分に楽しむ友人とアイツは、無邪気だった。
旅行から帰ってしばらくしたある日、3人で飲んだあと、もうすっかり習慣になった奥さんが帰宅する時間に合わせて帰宅。のルールを守り、アイツは先に帰った。
友人とその後も残ったが、眠くなった友人を送り届けたら、アイツから電話が入った。
「俺外で寝てた。やばい助けにきて」
何してんだ、真冬に、と急いでその場へ向かって家に送り届けようとした。
何故かアイツはコインパーキングで寝ていた。
財布も携帯もiQOSも、てんでバラバラの場所に忘れたり落としたりして、私が探し出したが、結局iQOSだけ見つからなかった。
「奥さんは?帰ってきてるんじゃないの?」
「どうやらサロンで寝たらしい」
奥さんはエステティシャンなので、終電が過ぎるとたまにサロンで泊まるらしい。
「じゃあとりあえず帰ろ」
「一旦そこに止めて」
止まったのは、アイツんちのそばの中華料理屋の駐車場だった。
そこで、アイツは言った。
「もういいじゃん、もうしようよ」
「舐めてよ」
私は「酔ってるの?」と聞いたが、もう寝たから酔いは覚めたと言い張る。
私は…認めたくなかったが、アイツが好きだった。
いつものらりくらりとお互いの気持ちをはぐらかしてきたけど、もういいかと思った。
アイツは既婚者だし、男が戻ったら元彼とよりを戻したって言えば、もう遊びに行くこともないだろう。
結末を用意してあるんだ、怖くない。
……
そう意味不明の決意をして
私はアイツのして欲しいことをしてあげた。
何度も何度も、先走るものを迎えてはやめ、またギリギリまで何度も何度も。
こんなに長い時間したことはなかった。
顎が悲鳴をあげるほどした気がする。
その途中で何度も思う存分キスをして、抱きしめて。アイツをギリギリまで気持ちよくさせた。
ただ、アイツが出しそうになるとやめた。
初めは「あんただけイクとかダメでしょ」と軽口をたたいて笑っていた2人だったけど、アイツはもう洒落で済ませるつもりはなく、我慢の限界を迎えていた。
そのうちにアイツは私の頭を掴んで、理性を忘れて獣のようになった。
そういうやり方は、好きじゃなかった。
嫌がる私を見て興奮しているアイツが少し怖かった。
そして当然それだけでは済まなくなる。
「後ろ行こ、もう無理、しよ」
セックスを激しく求めた。
私の濡れまくった下半身を触ろうと何度も手を入れようとした。
でも直接そこに触ろうとする手を必死で押さえた。
その時私は…
「やっぱりやめよ。これだけだったらまだおさまる」
アイツ
「いやだ、もう諦めて認めて」
私
「しちゃったら、もう友達じゃなくなるよ」
…..
もう友達なもんか。
今更何を言ってるんだと思うが、その時は本当にそう言うのが正解だった。
この押し問答で夜が明けていた。
結局アイツは「拒んだのはそっちだからな」と
拗ねるように言ったが、朝日の登る中私たちは帰路に着いた。
そんな出来事の後は、更に奥さんは警戒モードで、
ずっとレスだったのに、奥さんから解消してきたらしい、、、と友人伝いで聞いた。
奥さんはアイツの帰宅後にアイツの全身の匂いを嗅ぐようになった、とのこと。
2人でも3人でも、遊ぶ時は奥さんの帰宅時間まで。
夜中に会うことも電話が来ることも無くなった。
そして頻度も減った。
これでいい、これでよかった。
結局は奥さんと上手くやって欲しい。
ここからが更にゲスい話になるが。
いつも一緒だった頃のこと。
娘に感情移入してきていたアイツは、本当に良い奴で、娘のために色々とプレゼントを持ってきたり、娘の好物を食べに連れて行ったり、娘もアイツからもらったものを大事にし始めていた。
これは、子供のいない奥さんからすると他の女とセックスする以上に裏切り行為であり、奥さんを傷つける行為だと私は知っていた。
私には待っている男がいる。
娘にとっては、その男こそパパ的存在だ。
だけどこの人もいい人だ。ママも楽しそう。
一緒にお出かけするのだいすき。
出かけ先で、アイツと娘が仲良く2人で私を待つ姿を遠くから見た時、あぁ1番やってはいけない裏切りをしているな、と思い始めていた。
娘と3人で出かけている時のこと。
ふとアイツに
「○○ちゃん」
と男の名前で呼んでしまったこともあった。
….どちらにしても、もう、限界だった。
好きだけど、未来のない人だ。
結局のところ、束縛されても詰め寄られても、アイツは奥さんと別れる気はない。そんな気はない。
奥さんには若い頃に随分と支えられてきたらしい。
それを裏切るつもりはないのもわかってる。
アイツはただ一時、少しだけ別の世界を味わってみたかっただけ。
自分がなれなかった、父親という存在になれている気がして心地よかっただけ。
それでいい。
私にとってもそう。
男が戻ったらアイツと会うことはないだろう。
娘や息子にも、これ以上アイツとの思い出が増えてはいけない。
当時はなかなかキツく感じていたが…
アイツとのことは恋と言うより…友達以上恋人未満みたいな感覚だった。
お陰様で、奥さんに知られたくないことの証拠が上がった訳でもなくて、未だに1ヶ月1~2回ほどはご飯を食べる仲ではいられている。
娘や息子との関わりは、もうない。
アイツから子供のことを聞いてくることも無くなった。
どんなに最低なことをしていたかは、一度も話さなかったけど、2人とも誰よりもわかっていたはず。
で
最近少しずつ奥さんの警戒も緩んできたようだが…
このところ、確実に友人にしか連絡をしない。
それは上に書いた諸々が理由だと思うが、今のアイツがなぜ私に直接連絡しないのか?
その気持ちは私にはわからない。
私のことは、誘いたいなら友人が誘えば?というスタンスらしい。
私としても、友人を誘ってるんだから、私には別に会いたくないんだろうから2人で行きなよ、と基本行かなかったし、数回に1回しか合流していなかった。
今夜は、友人がしつこいので参加した。
居酒屋で私はアイツに言った。
「あたしいま恋してるんだよね」
「好きな人ができた」
「期間限定だけどね」
アイツはそれを聞いて
「ちょしんどい、トイレ」と席を立った。
友人は
「なんで言っちゃうの、アイツ落ち込むじゃん!」
「お腹痛くなってるよアイツ笑」
と言ったが、私はそれでいいのと言った。
未だに友人しか誘わないアイツ。
私との履歴が残ることを気にしているのか、純粋に気持ちを整理したいのか、そもそも私とはやっぱり会いたくないのか、2人で会うのが怖いのか、
その本心はわからないけれど…
微妙な何かを残したままにするよりも、
私はもう1回、友達に戻りたかった。
アイツは、隠しきれない動揺をしていたが
大人の対応をしてくれた。
「そうそう、あんたは奥さんを大事にしな」
そう言うと、「わかってるわ」と笑った。
店を後にし、友人を降ろして2人きりの車内になったが、応援するように言葉をかけてくれた。
中華料理屋を通った時
「あの時…」と私はわざと言った。
アイツは
「その話はするなよ、あの時してたらこうやってもう会えてないと思うし」
と言った。
「振られたら焼肉奢れよ」
と言った時、可愛い笑顔で「任せろ」と言った。
今夜も奥さんの帰宅前に、アイツを送った。
今日もアイツは、あの日無くしたアイツのiQOSの代わりに貸せと持っていった私のiQOSを握りしめて帰った。
車を降りる時「ありがとう」そう言ったアイツの笑顔がすごく懐かしかった。
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