はじめての最後#13
こんなに早く、このお話の結末を迎えるとは…
これで彼とのことがおしまいになる気配だ。
今夜いつものbarで久しぶりに彼の顔を見て少しだけ一緒に話すことが出来た。
今夜も先日の吉瀬美智子似さんが来ていた。
私も友人と。
その後彼はやってきた。
隣に座ってもらったが、しばらくしたら
ちょっと…と言って彼は吉瀬美智子似さんの隣に移動した。
ずっと彼女は彼に目配せと手振りで、コッチおいでとしていた。
それに応える形で、行ってしまった。
連絡先を交換しようと吉瀬美智子似は迫っていた。
彼も終始笑顔で楽しそうだ。
私は敢えて彼を一度も見なかったが、声が届く。
私はしばらく平気なフリしてこっちはこっちで楽しくやってる風を装った。
マスターもバイトの子も友人も、みんなが知っていることだから手厚いフォローを受けながら。
限界が来たので帰ってきた。
彼は今日リモートワークだった。らしい。
相当早く仕事は終わっていた。らしい。
なのに、私を誘わなかった。
昨日会う約束をなくしたくせに。
そして席を移動した。
これが答えだ。
振られちゃった。
ばいばい、大好きな彼。
独りよがりだった、死ぬほどかっこ悪い私。
火遊びで1回セックスしただけ。
何度もしたくなる女じゃなかった。
誘われたから乗っかっただけ。
彼にとって、私はその程度だった。
どうせいなくなる、当たり前だよね。
恥ずかしいけど
すごく傷ついたけど
こんなに好きになったんだ、誰かを。
このタイトルにしたのは、こうなることがわかっていたから。
生まれてはじめて、最後を知っていて落ちた恋
その「はじめての最後」だった。
こんな振られ方も生まれて初めてだな。
さすがだな。まじでいい男だった。
冴えない男かと思っていたのに、モテ男だったな。
ハイスペで優しくて、あたりまえだね。
一睡も出来なかった。
昨日の帰りは泣いたけど、家に着いてからはまったく涙もでない。それでいい。
兼業で恋してるので、お母さんは家で女の顔しなくていい。
なんだったんだろう。
私どうかしてる。
目を閉じて毛布にくるまれながら気づいたことがある。
私、嫉妬をしたのが…10年振りくらいだ。
檻の中にいる男とは、そういう気持ちが無かった。
男が嫉妬するばかりで、私は嫉妬されないように気をつけるばかりの関係だった。今もそう。
無駄な嫉妬をする男を、疎ましく思うこともあったし、大きな身体で小さい器だと情けなくも思っていたことがあった。
今やっとわかるよ。
嫉妬なんて、したくないよな。誰ひとり。
醜くて情けなくて苦しい。自分を否定された気持ちになり、相手への好きな気持ちに余計な脂肪が絡みつくような習慣病になる。
嫉妬させている側からは、その渦巻く苦しみは曇りガラスの向こうで煩く騒ぐ目障りなものを見ているようで、している側の苦しみなんて何も見えない。
懐かしい痛みだわ。
sweetmemoryか。
そして男から、やはり莫大な気遣いと愛情表現で、私は嫉妬知らずの暮らしをのうのうと生きていたのだと気付かされた。
その愛する男を裏切ってまで恋して、このザマ。
ぬくぬくと生ぬるいお湯に浸かっていた私は
今、突然猛吹雪の中に、裸で放り出された気分だ。
守ってくれるのは自分自身しかいない。
自分で衣服を探して、風避けを建てて、火を起こし
暖を取り、湯を沸かそう。
助けてよ…と彼に叫んだって、届かない。
無駄に喚くよりも、鼓舞して立ち上がるしかない。
みっともない自分を、1番見たくないのは自分なのだから。
覚醒するのだ、自分。
思い上がっていた自分に現実を叩きつけろ。
所詮、目の前から消える男だったのよ。
早かれ遅かれ。
そして、これまで守ってくれていた男が私の守りを必要としているのよ。
彼からの連絡を待つ日々を、やめようと思う。
自分がいかに彼に溺れているか、まざまざと見せつけられた。好きで仕方ない。
どんなに正論で語っても、素直な気持ちに蓋をすることはとてつもなく難しい。
でも
だけど
それでも
カッコつけたいんよ。
カッコ悪い自分が大嫌いなんだよ。
ずっと続いていた便秘が解消した。
体内にどよめく汚いものは、スッキリと流れ去った。
よし。
きっと楽しい週末の到来だ。
痩せ我慢でいい。それはいつか本物の我慢になって
我慢はあたりまえになって、我慢じゃなくなる。
…お腹が痛い。
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