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#15 メシアとの賃貸借契約

【前回までのあらすじ】
店子(たなこ:賃借人)が家賃滞納をしたため強制執行をする事になったメルカリ大家イリームだが、店子の店子と名乗る人物が現れ、その店孫と賃貸借契約を結ぶこととなるのであった。


2022年12月2日、私が貸している物件に一同が会した。

私と不動産屋、フォーシーズ(家賃保証会社)の名古屋支店長、そして現在私の店子のフィリピン人から家を借りているブラジル人のジャクソンさん、その友人で通訳の女性とその娘マリナちゃん(1才)だ。

ジャクソンさんは40代の男性で、奥さんと2人でこの家に越してきて半年ほど経っている。目がキラキラしているのが印象的だ。小顔で首凝りとは無縁そうだ。

マリナちゃんが動くので机の角に頭をぶつけそうになるのだが、ジャクソンさんはサッと手で机の角をカバーして守っている。

強制執行で立ち入った時も、抜き打ちお宅訪問だったにも関わらず綺麗だったが、今日は一段と磨き上げられている。

「えー、さて本日皆さんにお集まり頂いたのは、善意の第三者(法律的にそう呼ぶ)であるジャクソンさんと、この家の本当のオーナーであるイリームさんの賃貸借契約を結ぶためです。」と、出来る男の支店長がホストとなり話を進める。

ジャクソンさんはフォーシーズの審査用紙を記入する。現住所と転居先が同じという不思議な申し込み用紙が書き上がった。

支店長はパソコンを開き、「これまでも滞納などはないので、よっぽど大丈夫です。」と太鼓判を押した。

次に不動産屋が重要事項の読み合わせを行うが、ジャクソンさんには全て通訳して伝えないといけないため、時間がかかる。

マリナちゃんは退屈なので机の周りを周遊している。みんながマリナちゃんの近くの机の角を手でカバーしながら、読み合わせは進んだ。

その後、賃貸借契約書に署名と捺印だ。

以前にこの不動産屋で仲介してもらったところ、入居者に原本を渡して私にコピーを寄越したため、大変な事になった。

なので今回は原本を私に渡して下さいと伝えたところ、何を血迷ったのか「今回は念のため原本を2つ作る事にしました。」と言い、重要事項説明書と賃貸借契約書を二部ずつ用意してきた。

なので署名捺印の手間も2倍となった。ジャクソンさんはミドルネームが長いので大変そうだ。

関係ないが、外国人も日本の文化に合わせてカタカナの判子を持っているのが面白い。どこで作成するのだろうか。

フィリピン人の店子はジャクソンさんからの電話も、フォーシーズからの電話も、私の電話も着信拒否しているため行方知れずだ。

支店長は「住民票が移動したので、居場所は掴んでます。訪問しても出てきませんけどね。必ず捕まえて残金取り立てますよ。」と不敵な笑みを浮かべて帰って行った。味方にすると心強いが、敵に回すと恐ろしかろう。

不動産屋も、フォーシーズの審査用紙をFAXするために帰って行った。

ジャクソンさんは職場で知り合いの知り合いとしてフィリピン人を紹介されたそうだ。外国人は日本で家を探すのは大変なので、話に乗ってしまったようだ。

私の家と言ったり、ダンナさんの家と言ったり、入居してから半年後には出て行ってくれなどと支離滅裂な事を言われて困っていたが、本当のオーナーを探す方法が分からなかったため、神に祈っていたそうだ。

ジャクソンさんはキリスト教の牧師をしている。私はキリストの誕生日にこの家を購入した。そして今は12月だ。不思議な縁を感じる。そろそろキリスト教に改宗してしまいそうだ。

フィリピン人が作成した賃貸借契約書を見せて貰うと、氏名の所に日付が書いてあったり、滅茶苦茶だ。賃貸借契約書として有効なのか疑わしい。

何か困っていることはないか聞くと、実はジャクソンさんの前に4組ほど賃借人が入れ替わっているらしく、フィリピン人が鍵を大量に複製して渡していたため、今この家の鍵を持っている人物が少なくとも10人はいるらしい。

その人たちが時々やってきて、残置物(?)を持っていったりするらしく、猫も逃げ出したそうだ。(無事に戻ってきた)

ジャクソンさんの家には気配は無いのだが猫が居る。とても大人しくて怖がりで、ジャクソンさんと奥さんにだけ甘える可愛い子だ。

引っ掻き傷も作らない良い猫だが、一応猫を飼っているので賃料が3千円アップした。

とりあえず鍵の件は一刻も早く取り替えねばならないので鍵屋を呼ぶ。

玄関、裏口、倉庫があり、玄関の鍵は珍しいタイプなので高く、全部で10万円した。

鍵屋が作業している間、中で談笑する。さっきからジャクソンさんの姿が見えないのでどこに行ったのかなと考えていると、ブラジルのたこ焼きのような物を買ってきてくれた。

ローソンのからあげくんみたいな見た目で、中にツナとか肉が入っていてイケる味だ。

そしてブラジリアンコーヒーを淹れてくれる。

フィリピン人に初期費用20万円と月々の家賃、そして私にも初期費用30万円を支払うことになり懐が痛いはずなのに、なんていい人なんだろう。もうメシア(救世主)かな?メシアなのかな?

それにしても、フィリピン人の手口は手慣れていて驚くばかりだ。

家にはエアコンが4台ついているのだが、エアコン代として2万円を支払わないと全て外すと言われて支払ったそうだ。

月々の家賃は私の設定と同じ6.5万だったので、半年で退去させて初期費用で稼ぐスキームだったようだ。(本当は4.5万で借りて家賃でも儲けを出そうとしていたが。)

およそ2年間で4組入居させるとは、客付け力だけは半端なくある。そのやり方だけ教えて欲しい。

家の裏にこれまでの入居者の残置物が置かれており、処分していいとフィリピン人に言われたそうだが、粗大ゴミなので困っているという。

ソファや机や棚、照明、その他細々した物が置いてある。

トヨタのノアに乗っている夫を呼び出し、残置物を車に乗せようとするが、ノアは見た目の割に物が入らない。

「新車なのに〜。」と夫は涙目になりながら残置物の机や棚を押し込むが到底今日だけでは運べない量だ。

すると向かいの家の息子さん(40代)が声をかけてくる。「あの〜、すいません。車停めていいですか?」

「すっ、すいません。残置物があって、、、あっ!!ゴミ、捨てたい!!」

「あ、捨てます?ゴミ。」

この向かいの家の息子さんは産業廃棄物の業者さんなのだ!!

通訳の友人とマリナちゃんは帰ってしまったので、身振り手振りでジャクソンさんに確認しながら、いらないものを分別していく。

「これは、キープ?」

「Si. 」

これまでも半年間ジャクソンさんは住んでいたので、ジェスチャーなどでコミュニケーションを取ってくれていたようだ。向かいの人も神!


真ん中の家のおじいさんも外に出てきて「どうしたの?」と聞いてくる。

「実は契約した人が家を又貸ししてまして。お騒がせします。」と言うと、

「半年ぐらいのペースで人が入れ替わっとったよ。」と教えてくれる。このじいさんは忍びの末裔に違いない。


数日後に2tトラックがやって来て、置いてあった残置物を回収してくれた。三万円かかった。


私は鍵の交換費用と産廃処理費用で合わせて13万円支払うこととなった。

だが賃料は三千円アップしたし、0日で客付けできたので結果は上々だ。


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