NRF2020(世界最大の小売業界カンファレンス)速攻レポート
年初に米国で開催される次世代テクノロジーをお披露目する世界規模のカンファレンスとしてはCESが有名だ。近年は日本企業の存在感が薄くなっているとの嘆きの声が聞こえていたが、今年はTOYOTAが街をつくり、SONYは車を作ると発表し注目を集めた。
同時期に開催されるもう一つのイベントとしてNRF Retail's Big Show(以下、NRF)がある。規模こそCESには若干劣るが、それでも世界100ヶ国から4万人が参加する世界最大規模の小売業界のカンファレンスだ。小売業界もテクノロジーとの関連が強くなり最近のNRFはさながらCESの小売業界特化版カンファレンスといった印象を受ける。
それを象徴してか今年のNRF2020はマイクロソフトのナデラCEOのキーノートスピーチで幕を開けた。
ウォルマートやスターバックス等、世界上位100社のうち92社がマイクロソフトが提供するクラウドサービスであるAzureを活用し、いかに成功を納めているかのポジショントークが基本なのだが、そんな中でも今年のNRFのキーワードを占う上で筆者が注目した二つのキーワードについて紹介したい。
パーソナライゼーション
一つ目は、パーソナライゼーションだ。
ナデラCEOは「EC売上の30%はレコメンドを起点としている。そして長期的にも増加傾向にある。なぜなら80%以上の消費者が自分が気に入る商品やサービスをおすすめしてくれる事を期待しているからだ。」と言う。
真にパーソナライズされたリコメンドをする為には、個別システムのデータだけでなく、サプライチェーンから販売まで全てのデータを統合的にフル活用してリコメンドエンジンを高速改善していく事が重要だと続けた。
マイクロソフトが運営するゲーム販売プラットフォームのXboxの例を引用すると、ユーザーはどのデバイスから、どのページを見て、何の商品を購入しているか(ここまではよくあるECサイトのリコメンドと同じ)に加え、ゲームのプレイ履歴や、そのユーザーの友達に関する同様の情報も含めて、ほぼリアルタイムでリコメンドエンジンのモデルを強化学習させている様だ。
また、スターバックスのDeep Brewの例も挙げた。
Deep Brewとは2017年から導入されたAIベースのリコメンドプラットフォームだ。スタバ店頭やモバイルApp、デジタルメニューボード、ドライブスルーや音声オーダーシステムなど全てのチャネルの行動履歴に基づきパーソナライズした情報をリコメンドする。最も重視しているのはバリスタと顧客との繋がりだとスタバのジョンソンCEOは強調している。店舗毎に発注すべき在庫管理や必要なスタッフ数を30分毎に予測する機能等も加え、バリスタがより良い接客に集中出来るように、バリスタ強化の為のシステムという位置付けだ。
従業員エンパワーメント
スタバに限らず従業員のエンパワーメントに対しては昨年同様に今年もNRFの重要なキーワードの一つだ。
NRFによると「小売業は4人に1人のアメリカ人の仕事を締める。小売業は数ある業種の中でも単一のセクタでは最も雇用数が多い」それだけに従業員の働き方に対するインパクトは大きい。
従業員を各社のサービス提供価値のコアとなる部分に集中出来るようスタバがDeep Brewを選択したように、ウォルマートはボサノバ社の商品棚自動スキャンロボットの利用拡大を決めた。棚スキャンロボが店内を動き回り、自動で値札の間違い、欠品、商品配置ミスを検知してくるものだ。(今のところはロボット自体が在庫補充まではやってくれない。今のところは!)最近ではこの自動走行ロボ界隈の競争は激しくBadger、Zebra、小売以外でも医療用としてsaviokeなどの例もある。
また、近年では顧客体験(CX)に増して従業員体験(EX)の重要性の声も聞こえてくる。ナデラCEOのスピーチではコラボレーションツールTeamsを活用したIKEAの例が取り上げられ、従業員同士でメッセできたり勤務予定を調整したりする様子が映された。この業界もたくさんのスタートアップ(shyft、arcade)がひしめき合っている為、今後も目が離せない。
以上、NRF2020で筆者が注目した二つのキーワードについて解説した。2019年の傾向とさほど変わらないが、着実に現場レベルに落とし込んで実績が蓄積されていっている印象を受けた。
今後出てくるであろう日本人の参加者がどの点について言及するか今から楽しみだ。