あなたの芙蓉(11)
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夫と二人で福井鉄道に乗り、5駅が過ぎた。
都心の電車とは違い、福井県内の電車内はボックス席が多い。
それだけ利用者が少ないということだろう。
一面に広がる緑を眺めながら
「稲、きれいだね」
と私が呟くと、
「そうだね」
と彼は柔らかく言葉を返してくれた。
穏やかな時間だ、と気持ちを緩めようとしたが、突然なんとも言えない複雑な思いがこみあげてきた。
この穏やかさは、何のために用意されたものだろう。
一度心に浮かんだ疑念は少しずつ膨らみ、彼に向かって微笑みながらも不安は募り、一体どの駅で降りるのかもわからないまま、ゆっくりと進む電車の揺れに体を預けていた。
「お、サンドーム!」
彼が少し興奮気味に指を指した方向には、大物アーティストのツアーにも使われる鯖江市屈指の大型施設があった。
「あー。この前ドリカム来てたよね」
「そうなの?」
「ライブがある度に鯖江駅が大混雑するから、すぐわかる。」
「さすが、情報通やね」
「いやいや、街を見てればわかることやし」
と、北陸弁が口をついてでるほど福井の生活に馴染んだ私たちは、その後もひたすら目に映る福井の町並みについて互いに報告しあった。
「あ、あんなところに神社あるんや」
「ん?ちょっと待って!あのカフェ新しい!」
「ほんとや、今度行ってみようか」
二人で電車に乗っていると、同じ方向を見ているようで実はそれぞれ違う目線を持っていることに改めて気付かされる。
当たり前のことなのだが、ただ同じ部屋で生活をして、「互いに理解のある夫婦ごっこ」に甘んじているだけでは忘れてしまうことだ。
ポリアモリーの価値観を見習って夫婦間に導入したものの、面と向かって話し合ったわけではないので、端から見たら只の仮面夫婦、なのだろう。
夫のことは、愛している、とは思う。夫が私に抱く感情も、言葉にすれば「愛情」になるのだと思う。
だからこそ、お互いに家庭の外にも恋人が必要なのかもしれない。
「とにかく依存先は複数持っておきなさい。そうすれば離婚なんて面倒なことにはならないから。」
母の言葉が頭の中で何度も再生される。
つづく