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栗と柿と冷静な査定18

閉館時間になり、私たちはライブラリースペースの外に出た。

「なんか腹ごしらえする?お腹すいた?」

「うーん、まあまあかな」

手を繋ぎながらぶらりと奉還町を歩く。

(マッチングアプリやめてないのはお互い様か〜)

内心、彼女はホッとしていた。そんなところまで私たちはそっくりなんだなあ。

「付き合ったから退会しようね♥」

なんてことはお互いに言っていない。他にもっといい人がいればさっさと乗り換えたほうが時間のロスが少ない。

お互いにそう思っていながら、まだ会っている。

つまり、お互いが今のところ最高なのだ。

(なんだかんだ最新の女は私か)

(つまり、最新の男は俺か)

何も話さなくても、眼と眼で察し合っていた。

「あ、そうだ、行ってみたい店あったんだった」

そう言って彼女はInstagramを開いた。

「とっきーが美味しいって話してたカレー屋さんに行きたいんよ、いい?」

「いいでー😄😄😄行こか」

私たちはカレー屋に歩いていった。秋も深まってきたので、少し肌寒い。

彼が私の腰を抱いた。

「寒いやろ?」

こういうところに相変わらずドキッとしてしまう。スマートというか、手慣れてるというか…

(何人の女を抱いてきたの?)

そんなことは口に出さず、ただ、頷いた。

カレー屋ではポークカレーを食べた。彼はビーフカレーを食べていた。彼がラッシーを頼んだいたので私も〜と言うと

「お?いきますねー(^^)」

とニヤニヤしながら言われた。

(若干ケチなんだよなあ…)

と思いながらも、そういうところも好きだった。あんまり羽振りのいい男性は裏がありそうで怖くなる。

見返りに何を求められるのかと思うと、ゾッとする。

ふたりともカレーを食べ終わり、食後のラッシーを飲み、一息ついた。

お互いの仕事の話や最近笑ったこと、ちょっと悩んでいることなど、いろんなことを話していると、あっという間に30分が経った。

さすがにお店にも迷惑だろうと感じ始めたところで、彼がこういった。

「ほな、そろそろ行こか」

私は頷き、彼がお会計するのを待っていた。一応いつも財布は出すようにしているが、現金はあまり入っていない。

その代わり、Paypayにも少し残高があるので、払ってと言われれば払う準備はしていた。念の為クレジットカードも持ち歩いてはいる。最後の手段ではあるが。

そんなことをグルグル考えていたら、いつも通り全額支払ってくれて、彼が出口に近付いた。

「いつもありがとう(^^)」

彼の背中に声を掛ける。本当は目を見て言いたいのだが、恥ずかしさが勝って少し不躾なお礼になってしまう。

かれは聞こえたんだが聞こえてないんだかわからない様子で、店から出てアイコスを吸っていた。

(一人にしたほうがいいっぽいな)

私は煙が届くか届かないかのところでもじもじと待っていた。

それに気付いた彼がこちらを見た。

「ごめんな。すきにしとってな。」

「はーい」

私はスマホを取り出し、Threadsを開いた。

(あ!有吉さんがまたつぶやいてる!返信せねば!)

くだらないことをちまちま入力していると、突然電話がかかってきた。

めったに電話なんて来ないので驚いたが、知らない番号だったので無視した。

引き続きXを開き、こう呟いた。

「彼のアイコス待ちなう🚬今日のキスは煙草の味かな?#firstlove」

もちろんフォロワーは突然の惚気にドン引きだろう。それでもいいね!は瞬時に6つついた。

宇多田ヒカル共和国の結束は強い。お互いの幸せをよろこびあえる関係なのだ(多分)

次はインスタグラムにカレーのストーリーをあげて、っと…

などとちまちまスマホを触っていると、彼が近付いてきて私のスマホを取り上げた。

「しばらく禁止な(^^)」

「え!」

「なんでもかんでもつぶやかんこと。全部見てるんやで?笑」

(バレてた)

私は冷や汗をかいた。

つづく

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りおたろう
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