変わり果てた同期生、「エイミーシューマー」が見せたアメリカで女性コメディアンが売れていく形
まさかエイミーが売れるとは
同期は誰も予想していなかった
それくらい特徴のない、普通の女の子だった
コメディの世界に普通の女の子がいること自体、かなり異常なのだが
それにしても面影はない
見事に、おばさんコメディアンヌに仕上げられてしまった
最初に組んだエージェンシーと仲違い、その後もいろいろ方向性を探った結果
途中からは一種のプロジェクトとして
今のおばさん系に落ち着いたのだろう
彼女にぴったりのスタイルだと思う
なぜなら本来エイミーはオバサンっ気は全くないからだ
今や全米トップ4に輝く、エイミーが見せてくれたのはアメリカ女性がコメディ界でも売れる形の紆余曲折
同期といっても、一緒に一時期くすぶっていただけ
ニューヨーク、アッパーイーストのコミックストリップは
ちょっと変わったルールがあって
一次オーデイションを通過した若手は
毎晩レギュラーショーの終わりを待つ
その後に自分たちのネタ披露があるからだ
見せる相手は客ではない、
クラブマネージャーである
しかし一見すると客も座っているし、普通のショーとは変わらない
ただマネージャーがニコリともせずネタを審査する
他のクラブなら司会が最後まで続けるのだが
コミックストリップの司会は11時きっかりで帰ってしまう
明らかに異様で、一種のメッセージ
楽しみの時間は終わった
笑えない時間帯が始まる
と客に伝えているかのようで
客も察して帰るモード
しかし、この客を帰らさせないようにするのが暗黙のルール
方法は一つ、
笑わし続けれるかどうかだけ
2時間目いっぱい笑い、疲れ切っている客をさらに笑わせるのは至難の技
地獄の時間帯と呼ばれる所以でもある
コメディアン同士で次のコメディアンにマイクをつなぐ
舞台に上がる前にマネージャーから
次のコメディアンの名前をボソッと言われるが
これが苦手だった
ネタに集中したいのに
名前は聞き取りにくいことが多く、二回目聞きとれなかったら諦めていた
しかしマネージャーから一発で聞きとれた名前が
「次はエイミーシューマー」
最初の出会いだった
自分のネタが終わって
「次は抜群の面白い、エイミーシューマー」
「サンキュー、リオ〜」
客を返さない状態で、バトンタッチできてホッとする瞬間
この「サンキュー、〇〇」は意味が大きい
もし、このタイミングで客がわさわさと帰ると、その対応で舞台上がった途端に忙しく
前のコメディアンへの「サンキュー」どころではない
私はこれでお役目ごめん、しかし後も気になる
この時間帯の若手コメディアンは一体感ができている
体面上「次は抜群の面白い、エイミーシューマー」とは言ったが
実は、私はエイミーを面白いと思ったことがない
実際、エイミーはよく客に帰られていた
あの地獄の時間帯に
20代の女性スタンダップコメディアンはきびしかっただろう
当時はまだしていた大きなネックレスを揺らしながら
帰ろうとする客を引き止めていた
舞台を降りた後、次のコメディアンに謝っていた
笑えない舞台は二度とごめんだと強く刻み込むしかなかった
エイミーが映像でよくヤジられても客に強く返しているが、この頃の恨みなのかと思うくらい執拗にやっている
弱みをいつまでも放っておかなかったのが彼女の強みなのか
私は見る目がなかったのか
あるスタンダップコメディ定理に達した
私が面白くないなと思うコメディアンは売れるのかもしれない