先週付き合った男のLINEを、ずっと無視している
昨年の12月ごろから何度か食事に行った男性から、先週「付き合わないか」と言われた。
わりといい焼き鳥屋のカウンターで、夕食を食べた帰りだった。
「本当は、もうちょっといい雰囲気で切り出すつもりだったんだけど」
彼はそう言って困ったように笑った。でも、そもそも私たちがいい雰囲気になったことなんて、一度もなかったはずだ。
食事はしても、毎回一次会で解散。キスはもちろん手を繋いだこともない。色っぽい話もしていない。
「この人、私とどうこうなるつもりあるのかな?」と、内心不可解に思っていたのだ。
それでもなんども食事に行くのはその人のことが嫌いではなかったからだし、ありかなしかと言われたらありよりの微妙、という感じだった。
前の彼と別れて何だかんだ一年になるし、何人かの男と会ってもいまいちピンとこなかったし。
ここいらで付き合っとくか、ぐらいの気持ちで、私は「いいよ」と言った。
帰りの電車の中で、そういえば男の名前も思い出せないことに気付く。
彼のLINEには名字しか表示されてなくて、出会った頃に確かに聞いた気はするのだけれど、もう遠い記憶の彼方だ。ほどほどに混んだ丸ノ内線で、私は少しだけ憂鬱になった。
『これからよろしく!』
彼からのメッセージがスマホを揺らす。こちらこそよろしく、と送ろうとして、何だかだるくなってやめた。
翌日、またLINEが届いた。
『今週の金曜、映画行かない?』
金曜に映画か、と想像する。正直きつい。最近仕事がわりと忙しくて、早く上がれても19時半。それから映画を見ると22時近く。ご飯も食べなきゃいけないし、翌日は土曜日だから、どちらかの家に泊まろうという話になるかもしれない。
うちはわりと汚れているから、片付けるのは面倒だ。
でも、付き合いたての男の家に行くのも微妙。敏感肌でコンビニなんかで売っているメイク落としや化粧水を使うと肌荒れしてしまうから、自宅以外に泊まるにはわりと大荷物になるのだ。
何より、この男とセックスをすることが、全く想像できなかった。
だるい。
『仕事が忙しいけど、いけたら行きたいな〜』
とりあえず問題を先送りにする返信で、私は画面を閉じた。
週の中ごろ、またLINEがきた。
『やばい!日本代表が決勝進出!』
まず、日本代表って何のだよ、というのが率直な感想だった。どうやらサッカーの話らしいが、まずもってスポーツには全く興味がない。嫌な予感が胸をよぎった。
『金曜、うちで観戦しない?』
……嫌な予感的中。
スポーツ観戦する人って、どうしてみんなそれがあたりまえに楽しいって思っているのだろう。
私は通知に出たメッセージを開かずに、そっと消去した。
それから、彼のLINEを未読無視している。
金曜は家で一人で焼酎飲んでいた。
土曜日は二日酔いで気持ち悪くて、なぜ自分はこんなに社会不適合者で嫌な女なのだろうと悲しくなる。
ここに懺悔します。
もし今度恋人を作るなら、何となく付き合ったりしません。
無視もしません。本当にごめんなさい。
アーメン。
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