金曜日のショートショート03
今回から金曜日のショートショートは隔週になりました。なので、第3回目を本日公開します。
金曜日のショートショート(第3回目)
テーマ:蟹
『彼のMPには限りがある』
「蟹の色を問われて、一人目は茶褐色、二人目は赤、三人目は白と答えた。さて、きみは何人目だろう?」
真面目な顔をして彼は向かい側に座る彼女に問いかける。
「獲る者、加工する者、食す者、ってことだよね。うーん、でもそこは普通赤でしょ。蟹の色を赤以外で答えるのは単なる捻くれ者だよ」
彼女は笑って答え、幸せそうに目の前の食事を口に運ぶ。
「常にナイフとフォークで蟹を食べるようなお姫様は白と答えるかもしれないよ」
「あー、そっか、お姫様。その手があったか! 失敗したなぁ」
失敗と言いながらもその表情は明るい。
彼女は旅館の浴衣で寛いだ様子で食事を続ける。
「でもさぁ、これ、身も赤いよね。ほぐしたとしても、せいぜいピンクじゃない?」
ケラケラと笑う彼女を前に、彼は呆れ顔で手を動かしていた。随分と手際が良く、魔法のように見事だ。静かすぎる部屋にパキパキという音が響く。
「やっぱり北海道はいいね。来た甲斐があった。いくらでも食べられちゃう」
「ところで最後の願い事はまだ?」
「まだ思いつかなーい」と、彼女は笑う。
「私はいつまで蟹の殻を剥き続けたらいいんだろうね。長年ランプの精をやってきたけど、一つ目の願い事で『三つ目の願い事を叶え終えるまで、殻を剥かずに蟹を食べたい』と言われるなんてね。耳を疑ったよ」
「わたしだって、その願い事は魔法でビビッとやってくれると思ってたら、まさかランプの精が手で剥いてくれるとはね。二つ目の願い事も普通にネットで飛行機と宿予約してたし、魔法とは何なのだろうかと思ってるから」
「財源が魔法」
「わー、それは夢のある現実。それならやっぱりお姫様にしてって言えばよかったかな。いや、まだ間に合うのか。あーでも越前蟹もカンジャンケジャンも食べたいから迷うなぁ。北海道の蟹を食べ尽くす間に考えよっと」
「は? まだ食べる気?」
「二つ目の願い事は北海道食い倒れ蟹ツアーだよ? 魔法の絨毯に乗せろなんて言わないから、魔法の財源で頼んだよ、ランプの精さん」
彼はため息を吐き、またハサミを動かし始めた。視界に入る殻の赤い山は高く、これから何度もこの光景を目にすることになるだろう。
「そうだね、きみの言う通り、やっぱり蟹の色は赤だ」
終
友人3人で企画して始まった『金曜日のショートショート』は、報告不要で誰でもご自由に参加いただける企画となっております(もしよければタグをご活用ください)また、金曜日に間に合わなくてもOKなゆるゆるの企画です。過去分の参加もご自由に!
次回(6/5公開予定)の第4回のテーマは『はじめての』です。
テーマ一覧
01 金曜日(5/1公開)
02 レモン(5/8公開)
03 蟹(5/22公開)
04 はじめての(6/5公開予定)