金曜日のショートショート02
一週間の早さに驚きます。
そんなわけで、金曜日のショートショートの時間です。
金曜日のショートショート(第2回目)
テーマ:レモン
『ファーストキスの味はここにはない』
日課となったレモンを齧る。──どうやら今日は、もうひとつのほうの世界にいるらしい。
寝て起きると、二つの世界をランダムに行き来するようになって数ヶ月になる。パラレルワールドというのか、人も世の中も一見同じように見えるが、少しずつ違っている二つの世界だ。どちらの世界にいるのか簡単に見分ける方法はレモンだった。元の世界はレモンが酸っぱく、もうひとつの世界は甘い。それを確かめるために毎日レモンを買うようになった。
甘いレモンは美味しい。みかんやオレンジよりさっぱりとしていて、果肉をそのまま食べてもいいし、100%ジュースも人気が高い。その上、唐揚げにレモンをかけるか否か問題が存在しないのも良い。元々かけない派だったから不満はない。
あちらの世界にいた恋人はレモンをかける派で、いつも勝手にかけるので困っていた。そして、あの日に喧嘩をしたのだ。後悔している。まさかその日に恋人が事故に遭い、帰らぬ人になるなんて思いもしなかった。
その恋人はこちらの世界では、親友の婚約者だった。自分達が付き合うきっかけがはちみつレモンだったから仕方ないのかもしれない。この世界のレモンは、はちみつがなくても十分甘い。
いつかどちらかの世界を選ぶ時が来るのだろうか。もちろん甘いほうの世界を選ぶのが正しいことはわかっている。しかしどちらも「恋人」はいない苦い世界だ。
こちらの世界にいると、元の世界のレモンの味がまったく思い出せない。それなのに、親友の婚約者を見ていると、味を知らないはちみつレモンがたまらなく恋しくなる。そのことが自分の判断を鈍らせてしまうかもしれない。
終
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