金曜日のショートショート12
金曜日のショートショート(第12回目)
テーマ:カメラ
『端にいる理由』
「これ見て」
食事の途中に幼馴染のサヤカが写真を並べたので、ワインを飲みながらそれを見つめた。
「わ、懐かしい。これ、高校生の時の?」
「うん。部屋で古い使い捨てカメラを見つけて、現像してみたら、私のじゃなくマキのだったみたいで」
うちの高校は携帯の持ち込みが禁止で、その影響か当時なぜか使い捨てカメラが流行っていた。
「あー、うちの犬の写真もあるし、私のっぽいね」
「気づかず勝手に現像してごめんね」
「いいよいいよ、こんなの出すまで気づかないでしょ」
「よかった」
「その割には神妙な顔だけど、どうかした?」
「いや、この写真ね、私が写ってるのが多いんだけど……」
私達はよくお互いの写真を撮っていたので、それ自体は何も問題ないはずだ。
「どうしたの?」
「見てここ。あと、ここと、ここも」
いくつかの写真の端のほうを指差す。
「ん? 人だね」
「これさ、ケンに似てない?」
ケンはサヤカの彼氏だ。二人は大学生の頃に出会い、今も付き合っている。
「似てる、ような。でも、うちマンモス校だったし当時は知らなかったけど、同じ高校だったんだから写っててもそれほど変じゃないような気もするかな」
「でも、ここも、こっちも、隠れるように見てない? なんかちょっと怖くて」
「怖いって、来年結婚するんでしょ? 大丈夫?」
「もしかして、ケンって高校の頃から私のこと知ってたのかな? だとしたら嘘ついてるんだよね」
「そんなこと……」と言いながら、私は束になった写真をめくった。そして、手を止め、何枚かをじっくり見つめた。サヤカを見ると小さく頷いた。
「ね、いるでしょ?」
「確かに別の写真にも似た人いるね。端っこに」
「でしょ? 偶然に思えなくて」
「ごめん、こんなこと言いたくないけど、ストーカー? って少しだけ疑うかも」
「そうなの! どうしたらいいと思う?」
「聞いても、本当のことは言わないと思う」
「私もそう思うの」
「なんだかちょっと不気味だね」
「思えばケンって買い物してる時も遠くからじっと見てたりして、視線が怖い時があるの」
「ねぇ、サヤカ、結婚、大丈夫……?」
その後、サヤカはゆっくり考えると言って、私を残して店を出ていった。
ひとりになり、強めのカクテルを注文する。
私は高校の頃からケンが好きだった。だから彼がサヤカを見ていたことを知っていた。悔しくて、わざと写真の端に彼を写していた。だけどそんな写真を見るのが嫌で現像はしていない。うちにはそんなカメラが今もいくつかある。
大学で二人が付き合う前に、私は何も知らないふりをして、サヤカは影から見てるような男は好きではないとケンにさりげなく何度も伝えた。しかしケンは諦めず、二人は付き合うことになり、卒業しても関係は続いた。
サヤカの家に遊びに行って、その使い捨てカメラを置いてきたのは去年のことだ。さっき写真を見た時、ようやく見つけたのかと思った。
無自覚で鈍感で、無神経にすぐに人に相談を持ちかけてくる、いかにもヒロイン体質な彼女が私はずっと嫌いだった。今日だって、私がケンを好きなことに少しでも気づいたなら、きっと違う助言をしていたと思う。写真を見て、この不自然さに気づかないなんて、鈍感にもほどがある。
だから私は彼女を悲劇のヒロインにしてもいいやと、そう思ったのだ。
終
【企画概要】
『金曜日のショートショート』は、隔週金曜日に、お題に沿って少し不思議な短編、いわゆるショートショートを書く企画です。
*次回(10/9公開予定)の第13回のテーマは『御伽噺』です。企画の詳細や過去のお題はマガジンの固定記事をご覧ください。
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