ショートショート『胃袋を掴まれた』
胃袋を掴まれた
「今日のご飯は何?」と問いかけ続ける人生を送りたくて、料理好きな人と結婚した。「きみが死ぬまでご飯を作ってあげるよ」と約束してくれたけど、まさか本当に幽霊になっても私のご飯を作り続けてくれるとは思わなかった。
半分身体が透けた状態でキッチンに立つあなたの姿を眺めるのにももう慣れてしまった。ご飯も美味しい。ただ、ひとつだけ生前と違った問題があるとしたら、調理中に味見ができていないということだろう。どういう仕組みかはわからないけど、食材や調理器具を持つことはできるのに、それを口にすることはできないらしい。
生前の頃よりも少し濃い目の味付けの料理を食べ続けた結果、私は医者にかかることになった。聞けばそこそこ危険な状態らしい。やはりおいしい話には裏があるものだ。
こうして私はあなたは悪霊であったのだと悟った。だけど約束を守る優しい悪霊なので、私はご飯を食べ続ける。