台本「夢」
登場人物
零(レイ)
一(ハジメ)
AIの音声
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零のいるところだけが照らされている。
零 夢を叶えられないことは罪だ
零 僕らが生まれるより何年も前に国が管理するAIがそう決めた。小学生から中学生の間に僕ら国民は将来の夢を決めさせられる。今はもう絶版になっているらしいけれど、小さい頃読んだSF小説にこんなものがあった。スーパーコンピューターの決めたへんてこな法律に国民みんなが従う話だ。それを読んだからか、僕はその法律に違和感を覚えていた
舞台全体が明るくなる。
一 なあ、零。俺はいつ道を踏み外したんだろなあ……
零 ……
一 お前はいいよなあ……公務員になるって言ってほんとになってるもんなあ……現実的なものにすべきだったかな……俺も
零 ……兄さんは運が悪かっただけだよ。怪我さえなければ、絶対野球選手に……
一 嫌でも、別の夢にすれば良かったなあ……
零 ……
もう一度零のところだけが照らされる。
零 ……あんなものを読んだから。そう思って中学生の頃にSF小説を読むのはやめた。それでも、やっぱり違和感は消えなかった。それどころか ……強まっていった。思想の自由、表現の自由の保障なんて欠片もない。みんなAIを盲信している
舞台全体が明るくなる。
一 俺は、どんな罰受けるんだろうなあ……
零 それは……
AI 面会時間終了です
零 はい……じゃあまた明日来るよ、兄さん
一 ああ……また明日
零 戻りましたーっと……
機械に手を触れる。
零 えっと……うん、異常は無いかな……人事AIの管理ってほんっと暇だな……
AI お疲れ様です。先程、双葉さんが休憩に入られました
零 りょーかい
零はしばらくAIの横でスマートフォンを眺めている
AI 零さん、しりとりでもしますか?
零 遠慮しておく
AI 了解です
またしばらくAIと零の間に沈黙が流れる
零 Hey Siri
AI 私はSiriではありません
零 ごめんごめん、あのさーAIさん
AI はいなんでしょうか?
零 『夢を叶えられないこと』ってなんで罪なんだろうね
AI 私にはそれを考える力が備わっていませんのでわかりません
零 なんでだよ……
AI 国家AIと人事AIでは機能が違いますから、悲しいものです
零 AIも大変なんだね
AI そうですよ
零はスマートフォンになにかをメモし始める
段々と照明がフェードアウトし、零のところだけが照らされている
零 少し僕の考えをまとめてみようと思う。『夢を叶えられないこと』はなぜ罪なのかについてだ。国から発表されたのは『AIが決めた』ただそれだけだった。『人を殺してはいけない』と同様になぜ悪いのかを簡単に定義はできないのだ、と言う人もいるかもしれないけれど、道徳の面で考えればそれが、違うのは一目瞭然だ
零は少し間を置く
零 『夢を叶えられないこと』は親不孝、金の無駄、時間の無駄になる。だから、罪である。そう考えられるのかもしれない。でも、そんなことは罪なのだろうか。夢を叶えていても、親不孝で金を無駄にして、時間を無駄にした人間はいっぱいいるに違いない。それに、夢を叶えられなくても親がそれでいいと思えばそれは親不孝ではないし、人生経験として金も時間も無駄ではないだろう
照明が戻ってくる
零 やっぱり、わかんないな……
AI 何がですか?
零 いや、こっちの話
AI 零さんは公務員という夢を叶えているのですから気にしなくても良いのでは?
零 心読む機能はついてるの?
AI いいえ、先ほどの会話の流れからそういうことかと
零 あーなるほどね。僕は叶えられたけどさ、兄さんがね
AI そういうことでしたか、失礼失礼
零 怪我さえしなければ兄さんは絶対夢を叶えられてたからさ、なんでこうなっちゃったのかなって
AI そうでしたか、異議申し立てをしては?
零 そんな金無いよ
AI ほう、なるほど
零 段々殴りたくなってきたよ
AI 器物破損で訴えますよ
零 やめてくれ
零は少し笑いながらスマートフォンを見る
零 あ、やっばいもうこんな時間かそろそろ帰らなきゃ
AI お疲れ様でした。そろそろ三鈴さんが来ますので安心して帰ってください
零 わかってるよー
AI また明日お会いしましょう
零 うん、おやすみー
AI 私は眠りません
零 知ってるよ!!
暗転
零 ……
AI そろそろ時間ですのでご退出ください
零 少し待ってくれませんか?
一 零、俺は大丈夫だよ
AI そろそろ時間ですのでご退出ください
零 兄さん、その……
一 今までありがとな、零
零 今まで……ありがとう……兄さん、また……
一 または、ないよ、もう
一は泣いている
零、部屋を出る
零 う……うぅ……
零が泣き始める
後ろで兄が舞台からはける、部屋はAIと零だけになる
いつのまにかそこは零の職場になっている
AI 零さん、大丈夫ですか? 先程からずっと泣いていますが
零 大丈夫、大丈夫だから、少し放っておいて欲しい
AI わかりました
零はずっと泣いている
照明はフェードアウトしていく
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部活で文化祭で使うネタをみんなで考えていたとき、没になったネタを元に書いたものです。