始まりは40年前の西武百貨店
画像のフォルダーの整理をしていたら、ものすごく懐かしいものが出てきた。池袋西武百貨店主催の「一坪ショップ」という催し。何ともはや、40年ほど昔のお話しになる。
今の人形のスタイルになってからは約23年だけど、考えてみたらそのずっと前から私は人形を作っていたのだ。
作り始めたきっかけは米山京子さんの人形に出会ったこと。
当時、東京に住んでいた私は、新井薬師の米山さんのギャラリーへ電車やバスを乗り継いで足しげく通っていた。出来ることならレッスンを受けたかったが、その頃の私は薄給のバイトの身で、月謝を払うだけの余裕がなかった。
なので、飾ってある人形たちをウィンドー越しに、ガラスに張り付かんばかりに眺めて細部まで記憶に留めて帰り、家で本を見ながら自分なりに作るという事を繰り返していた。
優しい色合い、布と綿の温かみのある丸っこいフォルム。
今も私の人形の基本はあの頃のまま、変わっていない。
ある日、新聞で西武百貨店の催しのことを知った。趣味でしか作ったことのない人形を、展示即売なんて出来るのだろうか?って言うか、そもそも審査に通るのだろうか?
ダメもとで写真を送ってみたら、一次審査に通り、人形を連れて二次審査に行ったらこれも通ってしまい、あれよあれよという間に出展の日を迎えてしまった。
準備期間は、それから2~3か月ほどだっただろうか。
「期間中売り切れることがないように、十分に在庫を確保しておいてくださいね!」と、担当者から念押しされていたこともあり、バイトの傍ら、寝る間も惜しんでひたすら人形を作り、当日までに何とか50体を制作した。
いくら何でも50体とか信じられないよね。第一、こんなに売れるわけないのにイベントの後どうしたら良いんだろう~。
ところが、始まってみたら何と3日で完売!「売り切れることがないようにって、言いましたよね?」とガンガン怒る担当者に頭を下げながらも、気持ちは空高く舞い上がり…。
生まれて初めての展示即売で完売は、やっぱり有頂天になるよね。
よし!これで一生やっていける!って、本気でそう思ったりして。
その後、調子に乗って次々と人形を制作していく中で、委託販売をしてくれる所を探しに行くことを思いついた。
早速、大きな紙袋いっぱいに出来たての人形を詰め込んで、いざ出発!
当時、東京で暮らし始めてまだ1年ほどだっただろうか。街の様子も何も殆ど知らない田舎娘が選んだ場所は「奥沢」だった。何であの場所だったのかははっきりとは覚えていないが、バイト先の友人に「お金持ちが住んでいそうな住宅街」を教えてもらった中にあったような?
足取りも軽く駅に降り立つ。閑静な住宅街の中に、いかにも高級住宅街でございます的な雰囲気のブティックが点在していた。
子どもの頃から、超が付くほどの人見知りでやって来た私が、何の躊躇いもなく店のドアを開け「私は、こういう人形を作っているものです。こちらで委託をお願いできないでしょうか?」と、売り込む。
あれは本当に私だったのだろうか?
だが、意気揚々とスタートしたはずの「営業」は、どこの店からも断られ続けるという惨憺たる結果となってしまったのである。
展示即売で完売した時の感動が蘇る。きっと、どこのお店でも二つ返事で受け入れてくれるに違いないとタカをくくっていた私。真逆の現実を受け止めきれず困惑するばかりだった。
そのうち、あたりは薄暗くなり、雨が降って来た。
急な雨だったので傘もなく、着ていたトレンチコートを脱いで人形の入った紙袋を包み、濡れながら歩いた。駅に着く頃には、雨と涙でグシャグシャになっていた。
その後、濡れネズミの私は、所沢の駅にいた。何故そこだったのか?記憶が飛んでてよくわからないのだが、ふと、輸入雑貨の店が目に留まった。
自然と足はその店を目指し、躊躇いもなくドアを開けた。
笑顔で迎え入れてくれた店主は、「とても可愛いお人形ね。いくつ持ってるの?」と聞き、紙袋をのぞき込み少し考えていた様子だったが、結局、委託ではなく全部を買い取ってくれた。
思いがけない展開に、渡されたお金を手にしたままどうして良いかわからないでいる私に、「また作ったら持ってらっしゃい。」と優しく微笑んでくれた。
何処から見ても、上京したてとわかるような田舎娘が、雨に濡れ、さっきまで泣いていたであろう顔で、人形を買って欲しいと言う。店主は思わず同情してしまったのか、無下に断れなかったのかもしれない。
もしあの時、それまでの店と同じように門前払いだったとしたら、私はどうしていただろう?完全に心が折れてしまい、もう人形は作っていなかっただろうか。
その後、再びその店を尋ねることはなく、「その節は本当にありがとうございました。おかげ様でどれほど救われたかわかりません。」と感謝を伝えられなかったことが悔やまれる。
若い時には、ものすごいエネルギーがある。何も恐れるものはない!思ったら速攻で行動に移せ!何とかなる! みたいな根拠のない自信で満ち溢れてる。
歳を重ねていくごとに現実を知り、動く前に、出来ること、出来なさそうなことが見えてしまうようになる。自分の限界を自分で決めてしまい、その先への道を閉ざしてしまう。
でも
自分の中には、もしかしたら、もっと色んな可能性が眠っているのに、自分がそれに気が付いていないだけなのかもしれないと思う時がある。自分探しに年齢制限はない!タイムリミットぎりぎりまで自分を楽しまないと勿体ない!
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