四角い大自然
私の家の近所には、かなり大きい製造業の工場がある。
巨大な敷地を持ち、何百人もの従業員が勤務する大工場で、工業都市の中核をなす「人工物の象徴」のような建物だ。
その敷地内、フェンスに囲まれた従業員用駐車場の片隅に、小さな小さな緑地帯があった。
駐車場は通勤時以外に人影はなく、工場の稼働中は無人の車があるだけ。
敷地と一般道の間に植えられた植え込みが、あまり手入れが行き届かないうちに緑の濃さを増し、まるで緑地帯のようになったのだろう。
私有地であるため、部外者も立ち入ることもなく、フェンスの外を忙しく道を行き交うトラックの喧騒によって遮断され、コンクリートに囲まれた小さな“自然”がひっそりとそこに残っていた。
ある日、健康増進のために行っているウォーキング中、その工場の脇の歩道を通りがかった時に、フェンスの向こうの木々から降り注ぐ有機的な何かに気がついて私は顔を上げた。
フェンス沿いに数十m、奥行きは10m程度だろうか。
林とも呼べない薄い樹木の連なりの中、木々の枝の上に、様々な種類の鳥がところ狭しと巣を作り、ヒナを育てている光景が目に入った。
フェンスに張り巡らされた有刺鉄線と昼夜関係なく無数に走るトラックたちに守られ、野良猫たち天敵から逃れるように築かれた小さな“鳥の楽園”がそこにあったのだ。
地元の、しかもウォーキングで通りかかるくらいの近所である。
私自身、この道は自動車で何度も通っている。
ただ無機質な工場の建物群とアスファルトの舗装道路の連続の風景に見慣れ、もはやその場所をしっかりと”見る”ことがなかった私は、鳥たちの育む生命力を見ることができなかったのだろう。
辛くも、自分の生活を見直し、ヒトとして、より健全であろうと始めたウォーキングの際にその生命の息吹を感じ取ることができたのは、私の中で何かが変わってきた証なのではないだろうかと、勝手に喜びながら、
野生の動物が住める場所ではないと思っていたこの工業都市で、しっかり生き抜こうとする生物たちのしたたかさに感嘆していた。
そして、その生命力から噴出し、肩に降り注いだフンをぬぐいながら
徒歩では、二度とこの道は通るまいと心に誓った。
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