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宇宙一うまい料理ーたった1分で読める1分小説ー

彼は、宇宙一の舌の持ち主だった。

美味の星であるカコリコ星の中で、神の舌を持つ男と称されていた。彼が認めた料理店は『神店』と呼ばれ、客が殺到した。

彼は宇宙中を飛び回り、未開拓の美味を追い求めていた。期待に胸をふくらませながら無数の星を訪れたが、すぐにそれは、失望のため息へと変わった。

やはりカコリコ星以上の星はないのだ……。

そう確信したが、これで最後だと地球を訪れた。しかも、そこは日本だった。

辺境の星の辺境の国だが、もうここでいい。彼はどこか投げやりな気分で、オレンジ色の看板の店に入った。暖色は食欲をそそる。それはどの星人でも同じだ。

適当にメニューを指さして注文し、特に期待することなく口にした。そこで彼は、ガツンと殴られたような衝撃を覚えた。

うまい!

おいしすぎて、舌の細胞すべてがうち震えている。美味の洪水で、意識が飲み込まれる。

間違いない。神の舌が絶叫している。

これは、宇宙一うまい料理だと。

彼は興奮しながら、料理人に尋ねた。

「うまい。うますぎる!
 こっ、これはなんという料理ですか?」

「えっ……」

料理人が言葉を詰まらせたので、彼は思わず眉をひそめた。

なぜこの料理人は自信なさげで、こんなにも悲しそうな憂いのある表情をするのだ。宇宙一うまい料理を作るシェフなのに……。

しばしの沈黙の後、料理人は、気まずそうにこう答えた。


「チー牛(チーズ牛丼)です」


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コイモドリ 時をかける文学恋愛譚


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