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Photo by
takoyakiyuchan
宇宙一うまい料理ーたった1分で読める1分小説ー
彼は、宇宙一の舌の持ち主だった。
美味の星であるカコリコ星の中で、神の舌を持つ男と称されていた。彼が認めた料理店は『神店』と呼ばれ、客が殺到した。
彼は宇宙中を飛び回り、未開拓の美味を追い求めていた。期待に胸をふくらませながら無数の星を訪れたが、すぐにそれは、失望のため息へと変わった。
やはりカコリコ星以上の星はないのだ……。
そう確信したが、これで最後だと地球を訪れた。しかも、そこは日本だった。
辺境の星の辺境の国だが、もうここでいい。彼はどこか投げやりな気分で、オレンジ色の看板の店に入った。暖色は食欲をそそる。それはどの星人でも同じだ。
適当にメニューを指さして注文し、特に期待することなく口にした。そこで彼は、ガツンと殴られたような衝撃を覚えた。
うまい!
おいしすぎて、舌の細胞すべてがうち震えている。美味の洪水で、意識が飲み込まれる。
間違いない。神の舌が絶叫している。
これは、宇宙一うまい料理だと。
彼は興奮しながら、料理人に尋ねた。
「うまい。うますぎる!
こっ、これはなんという料理ですか?」
「えっ……」
料理人が言葉を詰まらせたので、彼は思わず眉をひそめた。
なぜこの料理人は自信なさげで、こんなにも悲しそうな憂いのある表情をするのだ。宇宙一うまい料理を作るシェフなのに……。
しばしの沈黙の後、料理人は、気まずそうにこう答えた。
「チー牛(チーズ牛丼)です」
↓7月11日発売です。冴えない文学青年・晴渡時生が、惚れた女性のためにタイムリープをするお話です。各話ごとに文豪の名作をモチーフにしています。惚れてふられる、令和の寅さんシリーズを目指しています。ぜひ読んでみてください。
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